
JERAがアラスカLNGを調査 供給網の多様化でエネルギー安保を強化へ
日本最大の電力事業者であるJERAが、液化天然ガス(LNG)の新たな供給先としてアラスカを検討していることが分かった。ロシアや中東情勢の不安定化、そしてオーストラリア政府のエネルギー輸出政策の転換など、LNG市場を取り巻く環境が変わる中で、JERAは供給先の多様化に本腰を入れている。
JERAの前川直行常務執行役員は4月29日の記者会見で、「エネルギー安全保障と安定供給の観点から、アラスカは検討に値する有力な候補地だ」と明言した。
アラスカLNG計画、米国の大型戦略プロジェクトに
アラスカ州で計画されているLNGプロジェクトは、総事業費440億ドル規模。州北部のノーススロープからパイプラインで南部ニキスキの液化施設まで天然ガスを輸送し、LNGとしてアジア市場へ出荷する構想だ。
この巨大プロジェクトは、ドナルド・トランプ前大統領の経済・安全保障戦略とも結びついており、米政府は日本や韓国などのアジア諸国に対して、資金や購入契約を通じた支援を呼びかけている。
米政府筋によると、6月上旬にアラスカで開催される予定のエネルギー首脳会議で、日本と韓国の企業が何らかのコミットメントを示す可能性があるという。
日本側は慎重姿勢も、地理的メリットは魅力
一方で、日本企業の間では、アラスカLNGへの投資に対して慎重な見方も根強い。建設コストの高さや、現時点での不透明な事業計画がその要因だ。
東京ガスの南拓CFOは「地理的にはアラスカは日本に近く、輸送上のリスクも少ない。ただしコストやリスクの精査は不可欠だ」と語る。
JERAは現在、年間約3,500万トンのLNGを輸入しており、そのうち10%ほどをアメリカから調達している。オーストラリアやカタールといったアジア・中東地域からの調達が主力だが、供給不安が続く中、北米の安定供給力が注目されている。
「我々の調達の半分以上はアジア・オセアニアに依存している」と前川氏は語り、北米や中東を含めた「地理的に分散されたポートフォリオ」の必要性を訴えた。
LNG需給と収益見通しにも影響
JERAは、2024年度のスポットLNG調達量が前年の450万トンから500万トンに増える見通しだ。スポット取引は供給リスクのヘッジや価格変動対応の手段として、戦略的に重要な位置づけとなっている。
ただ、収益面では逆風が吹いている。JERAは同日、2023年度の純利益が1,840億円と、前年度比で半減したと発表。海外発電事業や再エネ分野の不振が影響した。一方、2024年度は2,300億円までの回復を見込んでいる。
エネルギー安保に向け、JERAの判断に注目
今後、アラスカLNGプロジェクトに対する日本企業のスタンスが、エネルギー安全保障の観点からも大きな注目を集めることになりそうだ。特に米国との関税交渉が続く中、日本の赤澤亮正通商交渉官が訪米し、経済・エネルギー協力の在り方をめぐって協議を行う予定となっている。
仮にJERAや他の日本企業がアラスカとの契約に踏み切れば、地政学的リスクの分散や、供給先の多角化という点で、大きな一歩となるだろう。
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