中国とロシア、月面に原子炉建設構想 宇宙覇権争いの新たなステージへ

目次

中国国家航天局(CNSA)の宇宙関係者が4月23日、月面に原子力発電所を建設する計画を進めていることを明らかにした。目的は、将来的に月面に設ける基地へ安定的な電力を供給するため。この壮大なプロジェクトにはロシアも協力する方針で、宇宙開発をめぐる国際競争が一層激しさを増している。

なぜ月に“原発”? 太陽光では足りない電力

月面で長期的な有人活動を行うには、当然ながら電力が欠かせない。しかし、月では「昼」と「夜」がそれぞれ約14日間続く。太陽光発電は夜間にはまったく役に立たず、安定供給には限界がある。

そこで浮上したのが、原子力発電という選択肢だ。中国とロシアは現在、2030年代前半の実現を視野に月面への原発建設を検討中。特にロシアの宇宙開発公社「ロスコスモス」は、「2033年から2035年を目処に、月に原子炉を置くことを真剣に検討している」としており、中国側の発言はこれに歩調を合わせる形となった。

国際月面研究ステーション(ILRS)構想が前進

この月面原発構想は、中国とロシアが主導する「国際月面研究ステーション(ILRS)」の一環でもある。計画では、2035年までに基地の基本構造を完成させる予定で、最終的には火星探査の前線基地としての活用も想定されている。

中国の探査計画「嫦娥(じょうが)8号」は、2028年の打ち上げを予定しており、月面での建設技術や資源採取の実証実験が盛り込まれる。このミッションを通じ、原発設置のためのインフラ整備にも弾みがつくとみられている。

17カ国以上が参加、アメリカのアルテミス計画と対抗

ILRSにはすでにアゼルバイジャン、パキスタン、南アフリカなど17カ国が参加しており、中国は「555プロジェクト」として、今後50カ国・500機関・5000人規模の国際協力体制を構築する計画を進めている。

これに対抗する形で、アメリカもNASAの「アルテミス計画」を推進中。2027年には宇宙飛行士を再び月面に送ることを目指しており、開発拠点の設置や月面探査機の打ち上げを急いでいる。中国・ロシア連合と米欧連合による「月の陣取り合戦」が本格化しつつある。

建設は簡単ではない 技術と安全のハードル

原子炉を月に持ち込むのは、想像以上に難しい。まず放射線対策、次に熱を逃がす冷却システム、さらには遠隔やAIによる建設の自動化など、技術的な課題は山積している。

ロシアはこの問題に対応すべく、宇宙空間での原子力貨物船の開発にも乗り出しており、今後は月面に限らず、火星や木星の衛星探査、さらには宇宙ごみの除去といった応用分野への展開も視野に入れている。

宇宙の次なる覇権は「電源」から始まる

今回の中国・ロシアの月面原発構想は、単なる電力確保を超えた「宇宙開発の覇権争い」に他ならない。もしこの構想が実現すれば、地球外におけるエネルギーインフラの初の本格稼働例となる。

原子力という選択には賛否があるが、極限環境下での電力供給という課題に対し、現実的な一手であるのも事実。中国とロシアは、これを突破口に宇宙開発競争での優位性を確保したい考えだ。

2030年代、月の上でどの国が旗を立てるのか。注目が集まる。

中国、月面に原発建設検討

関連記事

おすすめ記事

  1. 再生可能エネルギーの普及促進を目的とした「再エネ賦課金」が、国民の経済的負担を増大させているとの指…
  2. 中国系開発による森林法違反疑い 羊蹄山麓で無許可伐採、北海道が工事停止を勧告 北海道の自然の…
  3. 尖閣諸島
    中国海警船、またも尖閣諸島周辺に領海侵入 主権侵害は常態化へ 日本政府は厳格対応を 沖縄県・…
  4. 北海道釧路市では、太陽光発電所の建設が急速に進んでおり、再生可能エネルギーの普及と自然環境の保護を…
  5. 減税は日本経済の処方箋になるか? ――インフレ恐怖と古い経済学から脱却を 私たちの…

新着記事

  1. 米ペンシルベニア州USスチール工場で爆発 死者2人・負傷10人 日本製鉄傘下で発生 米国東部…
  2. 日本移住で大学まで学費無料?中国で密かに広がる“教育支援”悪用の動き 厚生労働省の統計によれ…
  3. 日米関係に新たな火種か 米国が日本製品に15%の追加関税を発動 「合意」との齟齬に懸念広がる …
  4. 石破政権に「ネット言論統制」疑惑 削除要請の根拠示さず批判拡大 参院選を終えたばかりの自民党…
  5. CIA資金提供疑惑と河野洋平氏の非公開要請 戦後最大級の「政治とカネ」問題が再燃 冷戦期、米…
  6. 政治と税制の透明性に関する新たな提起:マイナンバー・インボイスと政治献金の「紐づけ」へ 制度…
  7. トランプ氏、対日15%関税に署名 カナダには35% 7日後に発動へ 米国のトランプ大統領は7…
  8. 外国人ドライバーの事故が増加傾向 免許取得のハードルの低さが安全脅かす 日本で車を運転する外…
  9. 【ベトナム技能実習生の逃亡が最多に】制度のほころびが生む不法滞在と犯罪の連鎖 佐賀県伊万里市…
  10. 野党8党が団結、ガソリン暫定税率の11月廃止へ法案提出へ ガソリン価格の高止まりが続く中、立…
ページ上部へ戻る