
英国政府、外国人犯罪の実態を可視化へ
スターマー政権、初の出身国別統計を年内に公表
英国政府は今年末までに、外国人移民による犯罪の実態を示す出身国別の統計データを初めて公表する。これには、国外追放や強制送還の対象となっている外国人の国籍、罪状、刑期など、これまで明かされてこなかった詳細な情報が含まれる予定だ。
この新たな方針を打ち出したのは、労働党のキア・スターマー政権。政府はすでに国外追放された外国人の人数を毎年発表しているが、追放前段階の情報まで公開するのは今回が初めてとなる。
英内務省は声明で、「これにより、外国人犯罪に関するより的確で透明性のある情報提供が可能になる」と強調した。制度の透明性を高めるとともに、移民政策への国民の不信感を払拭する狙いもある。
1万9千人以上が送還待ち
最多はアルバニア、続いてルーマニア・ポーランド
英国の法律では、禁錮12カ月以上の刑を受けた外国人は、自動的に国外追放の対象になる。昨年12月末の時点で、その対象者は約1万9200人に上っており、受け入れ国との交渉や法的手続きの複雑さが、送還の遅れに影響している。
内務省の統計によると、昨年実際に国外追放された外国人で最も多かったのはアルバニア人で1610人。次いでルーマニア人956人、ポーランド人433人、リトアニア人305人と続いている。
この数字は単なる移民の多さを反映したものではなく、国ごとの出入国管理協定の有無や司法手続きの難しさも関係しているという。
選挙を前に強硬策も
政権の狙いは「反移民」勢力へのけん制か
今回の発表は、5月1日に予定されているイングランドとウェールズの地方選挙を目前に控えたタイミングと重なる。スターマー政権は、保守党や右派のリフォームUKが掲げる「反移民」路線に対抗するため、厳格な犯罪対策を打ち出すことで中間層や保守層の支持を取り込もうとしているとの見方もある。
保守党のロバート・ジェンリック下院議員(影の司法相)はSNSで「今回の措置は画期的」と評価。一方で、「労働党は保守党の圧力に屈した」との皮肉めいた声も保守党内からは聞かれる。
これまでスターマー政権は、前政権が進めていたルワンダへの移民送還政策を撤回しつつも、密航組織の摘発や強制送還の強化といった「厳格さと人道」の両立を掲げてきた。
人権団体は警戒感
「偏見助長の懸念も」と専門家指摘
一方で、移民支援団体や人権団体からは、今回の統計公表に対し慎重な声が上がっている。「国籍別のランキングが公開されれば、移民全体に対する偏見や差別を助長するおそれがある」と警鐘を鳴らすのは、移民政策を専門とする研究者ロバート・ベイツ氏だ。
「情報公開そのものは望ましいが、その使い方や報じ方によっては逆効果にもなりうる」とし、丁寧な説明と報道の在り方が求められている。
実際に昨年夏には、移民をめぐる誤解や偏見に端を発した地域住民の暴動も発生しており、政府には統計の公表とともに、国民の理解を深める努力が強く求められている。
スターマー政権の今回の動きは、移民政策の新たな転換点とも言える。透明性を高めることで政策への信頼を築けるか、それとも逆に分断を深めてしまうのか。データが公開される年末に向けて、英国社会の対応が注目される。