
米中貿易戦争が新局面に:中国、報復関税は「これで打ち止め」
中国政府は11日、米国からのすべての輸入品に対して、現行の関税に加え新たに41%を上乗せし、合計125%に達する報復関税を発動すると発表した。これにより、両国間の経済摩擦は一層激化する形となったが、中国側は同時に「今後、米国がさらに関税を上げても中国はもはや相手にしない」と、追加の報復措置は行わない姿勢を示した。
新たな関税は12日から発動される見通しだ。
“打ち止め”宣言に込められたメッセージ
中国財政省は声明で、「米国による異常なまでの高関税は、国際的な貿易ルールへの明白な違反である」と厳しく批判。さらに、世界貿易機関(WTO)への提訴を再度行ったことも明らかにした。
中国政府関係者は記者団に対し、「米国が関税を積み増しても、経済的な実効性は失われ、かえって世界経済の混乱を助長する」と述べたうえで、「もはや応酬を続ける意味はない」と話す。事実上、“貿易戦争ゲーム”からの離脱を示唆した形だ。
この“打ち止め宣言”には、米国の挑発に乗らず冷静に振る舞うことで、国際世論を味方につけたいという戦略も透けて見える。
なぜ125%?トランプ関税への“答え”
今回の125%という数字には明確な意図がある。米国側はこれまで、中国製品に対して最大145%に及ぶ関税を課してきた。今回の中国の追加関税は、その数字には及ばないが、象徴的な対抗措置といえる。
「米国にとって最も重要な輸出品目が、今後中国市場で致命的な打撃を受けるのは避けられない」と、中国の経済専門家は話す。影響が想定されるのは、米国産の大豆、トウモロコシ、石油製品、航空機、半導体関連などだ。特に中西部の農業地帯にとって、中国は最大の輸出先であり、11月の米大統領選を前に、バイデン政権への政治的打撃ともなりうる。
専門家「これで終わるとは限らない」
UBS証券のアナリストは、「関税率が125%に達すると、米中間の一般的な物品貿易は実質的に停止する」と指摘。すでに中国の輸入業者の間では、「米国製品は採算が取れない」との声が相次いでいるという。
一方で、長期的にはサプライチェーンの再編成や、第3国を経由する間接貿易の増加など、さまざまな“抜け道”が生まれる可能性もある。
「確かに“打ち止め”という表現は印象的だが、貿易政策は状況次第でいくらでも変わる。今回の宣言が最終的な終止符とは限らない」と、東アジア研究センターの林准教授は警鐘を鳴らす。
市場と政界の反応は?
今回の発表を受け、世界の金融市場ではリスク回避の動きが強まり、主要株価指数は軒並み下落。特に米国株は、輸出依存度の高い企業を中心に売りが広がった。
米ホワイトハウスのカービー報道官は「中国の一方的な対応に失望している」と述べるにとどまり、さらなる対抗措置の有無については明言を避けた。
米国内でも反応は分かれており、製造業団体からは「競争力をさらに削ぐ結果になりかねない」との懸念の声が上がっている。一方で、対中強硬派の一部議員からは「中国が折れた証拠だ」との評価も出ており、政局にも影響を与えそうだ。
貿易戦争から対話路線へ?
今回の中国の対応は、過激な応酬の連鎖に終止符を打つ意思表示とも受け取れる。もっとも、それは対話の道を開いたにすぎず、両国が歩み寄るにはなお多くの課題が残されている。
「中国は大人の対応を演じようとしている。しかし、その裏には米国との対立が続くことを見越した、したたかな計算がある」と米ブルッキングス研究所のエコノミストは分析する。
米中の覇権争いは、単なる関税の応酬にとどまらず、経済、安全保障、ハイテク分野まで多岐にわたる。今回の“打ち止め宣言”が、戦略的な休戦の一環なのか、それとも本当の転機となるのか。世界中が注視している。
- 中国が米国への報復関税を合計125%に引き上げ
- 今後の追加報復は行わないと明言、「相手にしない」姿勢
- 米中の貿易戦争が実質的に膠着状態に
- WTO提訴も再表明、国際的な正統性アピール
- 米国側は今後の対応を検討中、市場は一時混乱
米中貿易戦争は、新たな静寂の中に入った。だがその静けさが、次なる嵐の前触れである可能性も否定できない。
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