
米中の貿易摩擦が再び激しさを増している。トランプ前大統領は9日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、中国からの輸入品に対する関税を従来の104%から125%へと一気に引き上げると発表。これに対し、中国も即座に報復措置を取り、10日正午すぎ(日本時間午後1時すぎ)から米国製品のすべてに対して84%の追加関税を課すと発表した。両国が一歩も引かぬ強硬姿勢を見せる中、世界経済への影響は避けられない様相を呈している。
トランプ氏「中国の無礼さに対応」
トランプ氏はSNS上で、「中国の市場での無礼なふるまいは許されない。米国は毅然とした態度を取る」と発言。これまでの対中関税をさらに21ポイント上乗せし、125%に引き上げると表明した。中国が米国の輸入品に対し報復関税を示唆したことへの“報復の報復”であり、まさに貿易戦争のエスカレーションだ。
また、トランプ氏は一方で、他国との関税措置については「90日間の一時停止」とし、対中強硬路線を際立たせた。米中関係のみを標的にしている姿勢は、来年の大統領選を見据えた保守層へのアピールとも受け取られている。
中国「一歩も引かない」構え
対する中国政府も黙ってはいない。財政省は10日、「米国からの輸入品すべてに対し84%の追加関税を適用する」と発表。当初は34%の追加関税とされていたが、トランプ政権の関税引き上げを受け、同様に大幅な上乗せを実施した。
中国外務省の報道官は記者会見で「米国は度重なる間違いを犯している。われわれは国家の正当な権利と利益を断固として守る」と強調。強硬姿勢を貫く考えを明らかにした。
武器売却めぐり米企業も標的に
今回の措置は関税だけにとどまらない。中国商務部は、台湾への武器売却に関与したとして、米企業6社を「信頼できない企業リスト」に追加。これにより、これらの企業は中国との輸出入取引が全面的に禁止される。
さらに、米企業12社が「軍民両用品輸出管理対象リスト」に新たに加えられ、戦略物資などの輸出が規制対象となった。中国にとっては経済だけでなく安全保障の分野でも米国への圧力を強める狙いがあるとみられる。
市場は警戒、企業も対応に追われる
米中両政府の関税応酬を受けて、金融市場は一時的に動揺。ニューヨーク株式市場ではダウ平均株価が一時300ドル超下落し、投資家のリスク回避姿勢が強まった。日本国内でも円高が進行し、輸出関連株に売りが目立った。
一方、実際の経済への影響も無視できない。米国では中国向けの農産品や工業製品が関税の直撃を受ける形となり、農家や中小製造業者の間に不安が広がっている。中国側でも、米国製の半導体や機械類などが大きく依存されており、国内生産への影響は避けられない見通しだ。
特に電子機器、航空機、農産品などの分野では、調達先の変更や価格転嫁といった対応が企業に求められることになりそうだ。
国際社会の懸念と今後の展望
世界第1位と第2位の経済大国が再び貿易で対立する構図は、国際社会にとっても深刻な問題だ。国際通貨基金(IMF)は、「貿易障壁の拡大は、世界経済の成長を著しく鈍化させるリスクがある」と警鐘を鳴らしており、特に新興国への波及が懸念される。
今回の関税応酬が短期的な駆け引きにとどまるのか、それとも長期的な対立の始まりとなるのかは、今後の両政府の対応にかかっている。
今のところ、米中ともに対話の兆しは見られず、互いに“倍返し”のような応酬が続く限り、緊張はさらに高まる可能性がある。大統領選を控えた米国、台湾総統選後の一国二制度に揺れる中国──国内政治の都合が国際経済に影を落としているとも言える。
これまで世界経済の“エンジン”とされてきた両国が、今や互いにブレーキを踏み合うような状況になってしまった。先行きは依然として不透明だ。
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。