
米国のドナルド・トランプ大統領は4月9日、世界約60カ国・地域に対して新たに課していた最大50%の「相互関税」について、報復措置を取らない国に限り、90日間の停止を発表した。関税停止中は10%の「一律関税」を適用するという。米国との交渉に応じる意向を示した日本や欧州連合(EU)などが対象とみられ、事実上の“猶予期間”を設けることで、米国に有利な通商交渉を進める狙いがある。
交渉のドアを開く「10%一律」措置
この措置は、4月5日に発動された10%の一律関税、9日に続いて実施された相互関税(貿易赤字の大きい国への追加関税)に対する調整措置とみられる。トランプ政権は「報復を仕掛けてこない国には、交渉のテーブルにつく機会を与える」との姿勢を明確にした格好だ。
トランプ大統領は記者団の質問に答え、「報復してこない国々とは話ができる。90日間、彼らの誠意を見たい」と語った。交渉期間中は10%の関税が適用されるが、相互関税の最大50%よりは大幅に低く、交渉継続へのインセンティブとなっている。
日本への関税率は一時24%に達していたが、今回の措置により10%へと引き下げられる見通しだ。
中国とは真逆の対応、125%へ引き上げ
一方で、中国に対してはこれとは真逆の姿勢を鮮明にしている。中国政府が9日、米国製品への報復関税を従来の50%から84%へ引き上げると発表したことを受け、トランプ政権は即座に関税率を125%に引き上げると表明。トランプ氏は「倍返しすると言ってきた通りだ。口だけではない」と強調し、“最大限の圧力”で対抗する姿勢を見せている。
実際、中国に対しては当初34%の相互関税が予定されていたが、報復宣言を受けて50%を上乗せ。さらに、合成麻薬の米国流入対策を理由に追加で20%の制裁関税を課しており、今回の措置により合計で125%という異例の高水準となった。
EUも10%に 自動車や鉄鋼などは継続課税
米政府高官によると、EUについても報復措置を取らなかったことから、今回の90日間措置の対象に含まれるという。今後、米欧間で関税緩和を含めた貿易協定の再調整が進む可能性がある。
ただし、自動車や鉄鋼、アルミニウムといった特定品目に対しては、従来通り25%の関税を維持する方針で、輸出依存度の高い産業界からは懸念の声も上がっている。
市場は好感、株価は一時急騰
トランプ政権の“報復なき猶予”という柔軟姿勢は、米国内の市場でもポジティブに受け止められた。9日のニューヨーク市場では、ダウ平均が一時3,000ドル超上昇、ナスダック総合指数も12%を超える大幅上昇を記録した。
ウォール街では「強硬一辺倒だった通商政策にバランス感が見られた」(投資銀行アナリスト)との声があり、リスクオフの流れがやや緩和されたとの見方が広がった。
与野党で反応分かれる “交渉術”か“場当たり”か
共和党内では、トランプ氏の交渉スタイルを「現実主義的」「成果重視」と評価する声が相次いでいる。上院の有力議員は「これは取引人トランプの本領発揮だ。最終的には米国に有利な協定を引き出すだろう」と語った。
一方、民主党を中心とした野党側からは、「予測不能な政策の連発が市場と同盟国を混乱させている」「対中強硬は支持するが、戦略が見えない」といった批判も根強い。
今後の焦点は90日後の“本番交渉”
今回の「90日間の関税休戦」は、あくまで一時的な措置にすぎない。関税を一時的に緩和することで交渉の時間を稼ぎ、米国に有利な条件を突きつける——トランプ氏の狙いはそこにある。
ただし、90日後の「次の一手」が不透明なままでは、再び市場や同盟国を揺るがすリスクも否定できない。トランプ政権にとっても、国際社会にとっても、この3カ月はまさに「正念場」だ。
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