日本時間9日午後1時、米が相互関税を発動 市場混乱と世界経済への懸念広がる

トランプ政権、相互関税を発動 中国には関税率104% 波紋広がる

アメリカのトランプ政権が、日本時間の9日午後1時すぎ、貿易赤字の大きい国や地域を対象にした「相互関税」を正式に発動した。今回の措置は、世界各国との貿易の不均衡を是正するとして打ち出されたもので、日本を含む60以上の国と地域が影響を受けることになる。

日本に対しては24%の関税が新たに課され、中国に至っては、すでにかけられている関税に上乗せする形で合計104%という異例の高水準に引き上げられた。米中対立のさらなる激化は避けられず、各国の市場や経済に不安が広がっている。

なぜ今、「相互関税」なのか

今回の措置は、アメリカ国内の雇用と産業を守るという名目のもと、トランプ政権が進めてきた「アメリカ第一主義」の一環だ。今月5日にはすでに一律10%の関税が発動されており、9日の「相互関税」で対象国ごとにさらに関税が上乗せされた。

たとえば、日本には24%、EUには20%の関税が適用されており、特に輸出依存度が高い産業には痛手となりそうだ。ホワイトハウスのレビット報道官は、「70カ国近くから見直しを求める声が上がっている」と明かしたうえで、「同盟国・友好国とは優先的に協議を進める」と述べている。

中国への“104%” 異例の高関税

なかでも中国への措置は厳しい。トランプ大統領は8日の演説で、「中国が交渉に応じるまで、関税は続ける」と強調。今回、これまでの追加関税に加えてさらに50%を上乗せし、最終的に関税率は104%に達した。中国側も黙ってはいない。「不当な経済的圧力には断固として対抗する」との声明を発表し、対抗措置をちらつかせている。

日本や他国の反応は?

日本政府も、この動きに強い懸念を示している。石破首相はアメリカ側に再考を求めるとともに、USTR(アメリカ通商代表部)と協議を進める考えを示している。農産物や工業製品の市場開放を求めるアメリカの姿勢に対し、日本側は慎重な構えだ。

韓国では、ハン・ドクス首相がトランプ大統領と30分ほど電話会談を行い、米韓の経済協力の維持と北朝鮮対応を含めた3カ国連携の重要性を確認したという。また、オーストラリアのアルバニージー首相は「経済的な自傷行為だ」と強い不満を表明。関税をめぐる米国への不信感は、同盟国の間でもじわじわと広がっている。

影響は経済全体にも

関税措置の影響は、貿易だけにとどまらない。アメリカを訪れる外国人観光客の数が、今年は約9.4%減少するという予測も出ている。とくにカナダからの観光客は、前年比で2割以上減る見通しだ。実際、アメリカ主要空港に到着する外国人は、3月下旬の1週間だけで前年比20%以上減っており、トランプ政権の方針が観光にも影を落としている。

また、金融市場もこの動きに神経をとがらせている。日経平均やダウ平均が大きく下げる中、「恐怖指数」と呼ばれるVIXは一時60を超え、リーマン・ショックやコロナ禍と同等の水準に達した。

専門家は「交渉の余地は見えにくい」と指摘

経済専門家の間では、「今回の措置は単なる交渉カードではなく、本気で貿易赤字の削減を目指している」との見方が強まっている。JETROの葛西泰介氏は、「対象国の広さや関税率の高さは想定を超えている。日本企業への影響も避けられない」と分析する。

さらに、「トランプ氏は株価の下落すら“必要なコスト”と考えている節があり、各国との交渉も容易ではないだろう」とも指摘。アメリカが掲げる「自国優先」の原則と、各国が求める「多国間協調」の溝は、簡単には埋まりそうにない。


トランプ政権による関税措置は、国内の支持層には一定のアピールとなる一方、国際社会では強い波紋を呼んでいる。今後の交渉次第では、一部の国に対して関税が緩和される可能性もあるが、中国との対立は長期化の様相を見せており、予断を許さない。

アメリカが仕掛けた“関税の波紋”は、いま世界中の経済と外交にじわりと広がっている。

関連記事

おすすめ記事

  1. 米国、輸入自動車に25%の関税を正式発表 米国のドナルド・トランプ大統領は3月26日、輸入自…
  2. 近年、全樹脂電池技術に関する機微情報が中国企業に流出した疑惑が浮上し、経済安全保障上の重大な問題と…
  3. 中国空母「遼寧」が東シナ海で艦載機を発着艦 自衛隊は即応対応 中国海軍の空母「遼寧」が202…
  4. 令和7年度の国民負担率、46.2%に達する見通し 令和7年3月5日、財務省は令和7年度の国民…
  5. JAと農水省が握る“コメ価格”の鍵:構造的癒着が招いた市場の歪み 日本の食卓を支えるコメ。そ…

新着記事

  1. 中国のブイ撤去も日本政府の無策が残した禍根 沖縄県・与那国島の南方海域に設置されていた中国の…
  2. 米国、対中テック規制を一段と強化 AI半導体と航空産業に照準 米国が中国に対して、新たな輸出…
  3. 沖ノ鳥島周辺に眠るレアメタルと中国の調査船活動――資源争奪で日中関係再び緊張
    中国、「沖ノ鳥島は岩」と再主張 日本のEEZを否定 資源めぐり緊張再燃 中国政府は2025年…
  4. 軽油価格カルテル疑惑:石油販売6社の不正行為が物流業界に与えた深刻な影響 2025年5月27…
  5. ロシア、過去最大の無人機攻撃をウクライナに実施 ゼレンスキー氏が強く非難 ウクライナのゼレン…
  6. 沖ノ鳥島EEZ内で中国調査船が無断活動 日本の海洋主権を無視する常習的挑発行為 日本の排他的…
  7. インドが日本を抜き世界第4位の経済大国に 名目GDP4兆ドル突破で新時代へ 2025年5月、…
  8. 中国空母「遼寧」が東シナ海で艦載機を発着艦 自衛隊は即応対応 中国海軍の空母「遼寧」が202…
  9. 成田空港が大変貌へ 本格着工の滑走路延伸・新設で発着能力2倍に 訪日需要に対応 訪日客増に対…
  10. 公約偏差値はすでに実装済みですが、公約偏差値をもとに星の数でも表現するよう仕様追加いたしました。数…
ページ上部へ戻る