
2025年4月7日の米金融市場で、米国債の売りが加速した。特に10年物と30年物といった長期債の価格が急落し、利回り(長期金利)は一時、前日比0.22ポイント上昇の4.22%台まで急騰した。背景には、米中間で再燃する通商摩擦と、それに対する中国側の“報復”として、保有する米国債の売却に踏み切ったのではないか、という観測が市場関係者の間で広がっている。
米中関係、再び緊張
発端は、バイデン政権が打ち出した新たな対中関税政策だ。中国からの一部輸入品に対する関税引き上げを検討していると報じられたことで、再び米中関係がぎくしゃくし始めている。
関税の引き上げは国内製造業の保護や中国への圧力強化を狙ったものだが、それに対し中国側も黙ってはいない。表立った発表こそないものの、北京が保有米国債の一部を市場で売却し、米国の金利上昇を招くことで対抗しようとしている――そんな見方が市場に広がっているのだ。
米国債は世界の金融市場で最も取引が活発な債券であり、金利の動きは株式市場や為替市場、さらには各国の金融政策にも影響を及ぼす。その動向が市場関係者の神経を逆なでするのも無理はない。
米国債市場、突如として波乱
今回の利回り急上昇は、通常の景気指標の発表やFRBの政策見通しとは異なる“地政学的リスク”に起因している点が注目される。中国は長年、米国債の最大保有国の一つであり、その動き一つで市場が動揺する存在だ。
実際、米財務省が2月に発表した統計によれば、中国は1兆ドル近い米国債を保有しており、これが売却されるとなれば、その影響は一国の市場だけでは済まない。
「これが単なる噂ではなく、実際に中国が売り始めているとすれば、米金融市場にとっては極めて重大な局面だ」。あるニューヨークのファンドマネージャーは警戒感をあらわにする。
また、関税強化による輸入コスト上昇がインフレを再加速させるのでは、という懸念も金利を押し上げた要因の一つだ。インフレが高止まりすれば、FRBが利下げに踏み切れず、金融引き締め状態が長引くことになる。長期金利の上昇は、そうしたシナリオの織り込みでもある。
貿易戦争が金利と経済を直撃
米中の関税応酬は2018年から2019年にかけても激化したが、そのときは米国債の買い手として中国の姿勢が変化することはなかった。だが、今回の中国の対応はより強硬との見方もある。
「今回は違う。中国は、米国の金融市場そのものに揺さぶりをかけることで、バイデン政権にプレッシャーをかけようとしている」と、米系投資銀行のアナリストは語る。
ただし、すぐに中国が米国債を大量に売却するとは限らない。米国債は安全資産としての地位が確立されており、中国自身にとっても外貨準備の運用先としては依然として有力だ。したがって、「売却」はあくまで“市場に対する牽制”の意味合いが強い、というのが大方の見方だ。
一方で、米国の経済にもこの緊張が重くのしかかる。長期金利が上がれば、住宅ローンや企業の借入コストが増大し、経済活動を冷やす。株式市場にとっても悪材料であり、7日の米国株はハイテク株を中心に軟調に推移した。
日米市場への波及も警戒
この動きは米国だけにとどまらず、日本や欧州の市場にも影響を及ぼしつつある。特に日本では、米長期金利の上昇が円安要因となる可能性があるため、為替市場の動きに要注意だ。
また、日本の機関投資家の多くが米国債に資金を振り向けているため、金利の変動が運用成績に直結する。「金利リスクが高まると、為替ヘッジをしている投資家にとってもコストが膨らみ、リターンを押し下げる」と、国内の生命保険会社の担当者は警戒感を示す。
今後の焦点は政治の出方
今回の利回り急騰は、中国の米国債売却という一つの“シナリオ”がきっかけではあるが、真に問われるのは米中両国の政治の出方だ。
今後、バイデン政権が関税政策を見直すか、それとも対中強硬路線を維持するかによって、金融市場の不安定さはさらに増す恐れがある。中国側も国内経済の減速や外貨準備の制約を考えれば、強硬一辺倒とはいかない可能性もある。
市場は今、政治の一挙手一投足に敏感になっている。米国債市場の波乱は、決して“対岸の火事”ではない。日本を含め、世界の経済と市場が再び米中対立の渦に巻き込まれる可能性が高まっている。
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