アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)は、1961年に設立されたアメリカ合衆国の主要な非軍事的対外援助機関であり、世界各国で経済開発、民主主義の促進、健康、教育、環境保護など、多岐にわたる分野で支援活動を展開しています。
設立の経緯
USAIDは、1961年9月4日にジョン・F・ケネディ大統領が署名した「外国援助法(Foreign Assistance Act)」に基づき設立されました。
それ以前、アメリカの対外援助は複数の機関やプログラムによって分散して行われていましたが、この法律により、開発援助を統一的に管理する機関としてUSAIDが創設されました。
この法律は、短期的な人道支援にとどまらず、長期的な経済開発支援を目的とした包括的な援助体制の確立を目指していました。具体的には、経済成長の促進、食糧支援、教育の充実、医療の向上、民主主義の強化など、多岐にわたる分野での活動が計画されました。
主な活動内容
USAIDの活動は多岐にわたり、以下の主要な分野で支援を行っています。
- 経済成長と貿易振興: 発展途上国の経済成長を促進するため、インフラ整備、企業支援、貿易の自由化などのプログラムを実施しています。
- 健康: 感染症対策、母子保健、栄養改善など、健康分野での支援を行い、特にHIV/AIDS、マラリア、結核などの疾病対策に注力しています。
- 教育: 教育機会の拡充、教育の質の向上、職業訓練などを通じて、教育分野での支援を行っています。
- 環境と気候変動: 持続可能な環境保護、再生可能エネルギーの導入、気候変動への適応策など、環境分野での支援を行っています。
- 民主主義とガバナンス: 民主的な制度の構築、法の支配の強化、市民社会の育成など、政治的な安定とガバナンスの向上を支援しています。
- 人道支援: 紛争や自然災害などの緊急事態において、食糧、医療、避難所などの人道的支援を提供しています。
組織と運営
USAIDは、アメリカ合衆国政府の行政機関であり、大統領に直属しています。1998年以降は国務省の監督下に置かれ、米国の外交政策を反映した活動を行っています。世界各国に拠点を持ち、現地のニーズに応じたプログラムを展開しています。職員数は約10,000人で、その約65%が海外で活動しており、現場の活動の大部分は、USAIDから資金提供を受けている契約機関が行っています。
予算と資金提供
USAIDの予算は約400億ドルで、2023年のアメリカの国際援助(680億ドル)の半分以上を占めています。その多くは医療プログラムに充てられ、ポリオワクチンの接種実施やパンデミックに発展する可能性のあるウイルスの拡散をくい止める活動に使われています。
近年の動向
2025年1月20日、ドナルド・トランプ大統領は2期目の就任直後、対外援助の一時停止を指示する大統領令14169号「米国の対外援助の再評価と再調整」に署名しました。これにより、USAIDの多くのプログラムが停止され、同庁の閉鎖手続きが開始されました。一部機能が国務省に統合されることが検討されています。
2025年1月20日に再選を果たしたドナルド・トランプ大統領は、就任直後にアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)の閉鎖を決定しました。この決定は、主に以下の理由に基づいています。
「アメリカ・ファースト」政策の推進
トランプ大統領は、就任以来「アメリカ・ファースト」の方針を掲げ、国外への財政支出を減らす姿勢を強めてきました。USAIDの活動は主に海外での支援を目的としており、国内優先の政策と相反するとの見方から、その閉鎖が決定されたと考えられます。
対外援助の効率化と再編成
トランプ政権は、連邦政府の効率化を理由に、対外援助を担う組織の再編を進めています。実業家のイーロン・マスク氏が政府支出の削減策を検討する組織のトップを務め、USAIDの閉鎖に大統領が同意したと報じられています。
予算削減と財政責任の強化
一部の報道では、USAIDが米国の納税者からの資金を無駄に使っているとの批判があり、予算削減と財政責任の強化が閉鎖の理由として挙げられています。特に、LGBTQ+やトランスジェンダーに関するプログラムが無駄遣いと見なされ、これらの資金を国内の緊急支援に振り向けるべきだとの意見もあります。
対外援助の政策見直し
トランプ政権は、対外援助の政策を見直し、米国の国益と一致しないと判断されたプログラムを停止または廃止する方針を示しています。これにより、USAIDの多くのプログラムが停止され、同庁の閉鎖手続きが開始されました。
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