
アメリカと中国の経済対立が、再び世界を揺らしている。
トランプ政権は9日、中国からの輸入品に対し最大145%の関税を課すと発表した。これは、すでに課していた20%の関税に加え、新たに125%の「相互関税」を上乗せするという強硬な内容。ホワイトハウスもこの方針を正式に確認し、貿易赤字の是正を掲げたかたちだ。
トランプ前大統領は記者団に対し、「中国は長年アメリカを利用してきた。我々は正当な対応を取る」と発言。さらに「交渉の行方によっては、両国にとって良い結果になるだろう」とも語った。
しかし、中国側の反応は当然ながら厳しい。
中国政府は即日、アメリカからの輸入品に対して84%の追加関税を発動。中国商務省は「アメリカの一方的な関税はルール違反であり、中国の正当な利益を深刻に侵害する」と強く非難している。
こうした応酬の中、10日のニューヨーク株式市場では、ダウ平均が一時2100ドル以上も下落。市場では米中の貿易摩擦が一段と激しくなるのではという懸念が再燃し、投資家の心理を冷やした。
文化と人的交流にも影響
関税合戦は経済だけにとどまらない。中国国家映画局は、アメリカ映画の輸入本数を今後減らす方針を発表した。報道官は「アメリカの関税乱用により、観客の米映画への好感度は下がるだろう」と語り、今後は他国の作品を積極的に取り入れていく考えを示した。
また、中国文化観光省は、アメリカへの渡航について「慎重に判断を」と国民に注意喚起。観光やビジネスなど人の往来にも影が差し始めている。
国内からもトランプ政権に批判の声
アメリカ国内でも、この一連の対応に疑問の声が上がっている。
メリーランド州のウェス・ムーア知事(民主党)は来日に先立ち、NHKのインタビューで「関税政策はもはやイデオロギーになっている」と痛烈に批判。「私たちが目にしているのは、物価の上昇だ。日用品から農業、港湾業まで州内のあらゆる産業が打撃を受けている」と訴えた。
また、同州に拠点を置く日立やテルモといった日系企業についても、「先行きが読めず不安を感じている」とし、「政府にはもっと安定性と予測可能性が求められる。気まぐれな政策は望ましい結果を生まない」と苦言を呈した。
広がる懸念、求められる冷静な対応
世界貿易機関(WTO)もこの動きに懸念を示しており、米中の貿易が最大で80%縮小する可能性を指摘。グローバル経済全体において、実質GDPが7%落ち込むリスクがあるとの試算を明らかにした。
もはや米中間の争いでは済まされない規模にまで発展しつつある今回の関税戦争。世界が今、求めているのは互いを威嚇する強硬策ではなく、未来に希望を残す冷静な交渉ではないだろうか。
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