ベトナム技能実習生の逃亡者が最多に 制度の限界と不法滞在・犯罪の連鎖が浮き彫りに

【ベトナム技能実習生の逃亡が最多に】制度のほころびが生む不法滞在と犯罪の連鎖

佐賀県伊万里市で起きた母娘強盗殺人事件の容疑者として、ベトナム人の技能実習生が逮捕された。容疑者は地元の食品加工会社に勤務し、同じ職場で働く複数のベトナム人実習生と共同生活を送っていた。言葉は十分に通じず、日本語はほとんど話せなかったという。事件の背景には、技能実習制度が抱える構造的な問題が浮き彫りになっている。

【逃亡者の半数以上がベトナム人】過酷な現実に背を向ける若者たち

2023年に日本で技能実習中に職場から姿を消した実習生は9,753人。そのうちベトナム国籍の実習生が5,481人を占め、全体の過半数に達した。この逃亡者数は国別で最も多く、日本の実習制度が彼らにとってどれほど過酷なものであるかを物語っている。

実習生の多くは、劣悪な労働環境や低賃金、人権侵害に近い扱いを受けており、やむを得ず逃亡という選択を取る者も少なくない。逃げ出した後は、在留資格が取り消され、不法滞在者として地下に潜ることになる。

【「ボドイ」組織の闇】逃亡後に待つ犯罪への引き込み

逃亡実習生の中には、SNSなどで結びついた「ボドイ」と呼ばれるベトナム人ネットワークに身を寄せ、犯罪に手を染めるケースも目立ってきた。農作物の窃盗や、銀行口座の不正売買、特殊詐欺の受け子などに関与し、次第に犯罪の深みに巻き込まれていく。

警察庁のデータでは、2024年に検挙された来日外国人のうち、刑法犯として処理されたのは6,368人。そのうち986人が技能実習生または元実習生であり、647人がベトナム人だった。これは外国人刑法犯の約10%にあたる。

【「社会内社会」の孤立】日本語も学べず地域と断絶

ベトナム人技能実習生は、日本の職場において最も多い国籍だ。2024年末時点で、実習生全体は約45万6000人、そのうち**ベトナム人は21万人以上(約46%)**を占めている。

彼らは母国語が通じる仲間と共に寮生活を送り、仕事も同じ職場でこなすため、日本語を習得する必要性を感じにくい。このため地域社会との接点がほとんどなく、独自の閉じたコミュニティが形成されている。結果的に「社会の中の別社会」となり、孤立が深まっている。

今回の事件もまさにその象徴だ。日本語の壁、社会との断絶、逃げ場のない環境が、最悪の形で噴き出したと言える。

【新制度「育成就労」導入へ】逃亡の連鎖に歯止めなるか

政府は、現在の技能実習制度を見直し、2027年度(令和9年度)から**「育成就労制度」**へ移行する方針を打ち出している。新制度では、実習生の転職が条件付きで認められる見込みで、劣悪な職場から逃げるしかなかった実態に一定の対応を試みている。

しかし、転職の自由が導入されることで、より待遇のよい都市部に実習生が集中する懸念もある。これまで人手不足を補っていた地方の中小企業が、労働力を確保できずに困窮する恐れも指摘されている。

【送り出し機関の闇】来日前から始まる搾取

ベトナム人実習生の多くは、母国の仲介業者を通じて来日する。この際に、渡航や紹介の名目で数十万円に及ぶ手数料を支払っているのが現状だ。一部では約70万円近くの借金を背負って来日する実習生もおり、「夢を叶えるための日本」が、実際には借金地獄の入り口になっている。

このような不透明な送出しスキームは、送り出し国と受け入れ国の双方に責任がある。日本側の企業も、実習生の出身背景や借金問題に目を向けることが必要だろう。

制度の再設計は今しかない

今回の事件は、単なる一つの犯罪では終わらせてはならない。ベトナム人実習生の逃亡が最多となった背景には、日本の技能実習制度の制度疲労と制度設計の甘さがある。新制度「育成就労」はその抜本的見直しの一歩となるが、実習生の人権を守り、日本社会との橋渡しをする本質的な改革が求められている。

逃亡、不法滞在、犯罪、孤立――これらを断ち切るためには、制度の透明化、受け入れ先企業の意識改革、そして社会全体での受け入れ体制の整備が不可欠だ。

未来の労働力である外国人材に対し、私たち日本社会はどのように向き合うべきか、いま一度立ち止まって考える必要がある。

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