スタンフォード大学などによる論文「Social Media Algorithms Can Shape Affective Polarization via Exposure to Antidemocratic Attitudes and Partisan Animosity」を読んでみました。
この研究は、ソーシャルメディアのアルゴリズムが政治的な分極化や感情的な変化に与える影響を実証するもので、興味深い成果を示していて、またこれについて日本メディアも取り上げています。
「Xのアルゴリズム」は数日であなたの政治的意見を変えられる――米スタンフォード大が1000人以上で検証
しかし、最近日本で問題になっている「選挙でのSNS」と直結するのは乱暴だと思います。
そもそも査読もついていない論文に対して、スタンフォード大学という後光効果を狙った報道はいかがなものかと思います。
研究設計の限定性
この研究は、アルゴリズムの影響を評価するために、特定の条件下で実験が行われています。
参加者は政治関連投稿が一定割合以上含まれる「For You」フィードを持つユーザーに限定されており、政治的関心が低いユーザーや他の国・文化に住むユーザーには一般化できません。
また、10日間という短期間の影響を測定した結果が、長期的な変化をどの程度示すのかも不明です。
敵意コンテンツの定義の主観性
「敵意コンテンツ」を特定するためのアルゴリズムは、党派的敵意や反民主的態度を含む投稿を分類するよう設計されています。
しかし、これらの基準には研究者の主観が含まれており、異なる文化や政治的背景においては異なる結果をもたらす可能性があります。
例えば、ある地域では批判的な意見が建設的な議論と捉えられる場合もありますが、別の地域では敵意として分類されるかもしれません。
行動データと感情データの不一致
この研究では、敵意コンテンツの増減が感情に与える影響を測定しましたが、エンゲージメント(リポストやいいねの数)には大きな変化が見られなかったとされています。
これは、感情的反応と行動的反応が必ずしも一致しないことを示しています。ソーシャルメディアの設計者がアルゴリズムを変更しても、ユーザーの行動習慣やプラットフォームの利用目的には限界がある可能性があります。
アルゴリズムの倫理的課題
この研究は、民主的価値観を強化するアルゴリズムを提案していますが、こうした変更は一部のユーザーに対して「検閲」と感じられる可能性があります。
特に、保守的なユーザー間で警告ラベルが逆効果を生んだという結果が示しているように、アルゴリズムの変更が全ユーザーにとって公平である保証はありません。
技術的・運用的制約
アルゴリズムの変更は技術的には可能であるとされつつも、大規模なプラットフォームでは運用上のコストやユーザー体験の維持に課題があります。
また、利益を追求する企業が、短期的なエンゲージメントを犠牲にして長期的な社会的価値を優先する動機付けを持つかどうかも疑問です。
スタンフォード大学の研究は、ソーシャルメディアが政治的な意見や感情に与える影響を示した重要なステップである一方、限界や課題も明らかです。アルゴリズムの変更が社会にとってどのような長期的影響をもたらすのか、また、それをどのように公平かつ効率的に実行するかをさらに探る必要があります。包括的な議論と透明性が、この分野の進展に不可欠です。
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