
日本車への“非関税障壁”主張、根拠なき再燃に日米交渉への懸念も
アメリカのドナルド・トランプ前大統領が20日、自身のSNSで「日本は米国車のボンネットにボウリングの球を落として検査する」と発言した。この突飛な主張は2018年にも語られたもので、当時はホワイトハウス報道官が「明らかな冗談」として打ち消した経緯がある。しかし今回は、非関税障壁の一例として具体的に列挙される形で再登場したことから、日米の経済交渉の空気にも微妙な影を落としている。
“都市伝説”のような検査基準、再び
トランプ氏は投稿で、米国の貿易赤字の原因として「他国による不正な非関税措置」を挙げ、日本の「ボウリング球検査」もその一つだと主張。彼の言うには、「日本は6メートル上からボウリング球を米国製の車のボンネットに落とし、へこんだら輸入を認めない」とのことだ。
この“伝説の検査”は、実在しない。自動車業界関係者や専門家の間では、これまで一度も存在が確認されておらず、日本の国土交通省の基準にも、当然ながら記載はない。実際には衝突安全性能の評価や衝撃吸収構造の試験は存在するが、いずれも国際基準に準拠した科学的な方法で行われており、「ボウリング球」などという極端な手段は用いられていない。
2018年にも同様の発言、「冗談」と処理された過去
この話が初めて飛び出したのは、2018年。トランプ氏が当時、自動車輸入に関する議論の中で突如「ボウリングボールを落とす」と語ったことが話題となった。その際、ホワイトハウス報道官が「ジョークの一環だ」と説明して騒動を収束させたが、今回は明らかに冗談とは異なるトーンで、「不当な技術的障壁」として挙げている。
日米間では現在、自動車やEV充電規格、炭素税、デジタル貿易などをめぐって交渉が続いており、こうした発言が火種となる可能性も否定できない。
赤沢経済再生担当相との会談でも「アメリカ車が走っていない」と不満
トランプ氏は今月16日、訪米中の赤沢亮正経済再生担当大臣と会談。その席でも「日本ではアメリカ車がほとんど走っていない」と語り、日本市場が“閉ざされている”との認識を改めて示したとされる。だが、この指摘にも疑問符が付く。
実際には、日本市場におけるアメリカ車のシェアは約0.3%と極めて低いが、これは関税や非関税障壁によるものではなく、主に「サイズの問題」や「燃費性能」「左ハンドルの扱いづらさ」といった、ユーザー側のニーズと乖離していることが原因とされる。GMやフォードなども過去に日本市場へ参入を試みたが、販売台数の低迷から撤退や縮小を余儀なくされた歴史がある。
自動車業界と専門家は冷静
日本自動車工業会の関係者は今回のトランプ発言について、「またあの話か、という感じです。現場では笑い話になっています」と語る。業界団体や政府関係者の間では、“現実に即していない空論”として冷静に受け止めており、実務的には影響が少ないと見られている。
ただし、問題は「政治的な利用」だ。特に選挙を控えたトランプ氏が、自動車産業を含む“アメリカ第一主義”をアピールするために日本批判を繰り返す構図は、実務交渉とは別に世論形成に影響を与える可能性がある。
繰り返される「誤解」から抜け出せるか
日本政府は、トランプ氏の発言について公式な反応を控えているが、外務省関係者は「根拠のない主張が、両国の関係や交渉ムードを損なうのは避けたい」と語る。外交的な摩擦に発展させないためにも、発言の真意や背景を冷静に見極め、過度に反応しない姿勢を維持する考えだ。
一方で、こうした発言が続く場合には、専門的な説明や事実確認を通じて誤解を解く努力も欠かせない。経済同盟としての信頼関係を損なわないためには、政治的な発言に振り回されず、地道な対話と透明性のある制度運営が求められている。
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