オーバーツーリズムが引き起こす修学旅行の行き先変更 京都・大阪から北陸へ

修学旅行、行き先変更の動き加速 京都の混雑、費用高騰が影響

インバウンド観光客の急増や物価高騰を背景に、修学旅行の行き先変更が広がっている。これまで定番だった京都や大阪への修学旅行が、混雑や高騰する旅行費用を避けるため、北陸方面などへと変わりつつある。旅行業界や教育現場では、この流れにどう対応するかが重要な課題となっている。

京都・大阪での過密状態

高知市立南海中学校(高知市長浜)では、今年の修学旅行で行き先を名古屋市周辺に変更した。例年10月下旬に京都・大阪を訪れていたが、観光地の過密状態が影響した。前年の修学旅行で、京都市内の清水寺や仁和寺を訪れた際、公共交通機関が混雑し、バスの遅延や乗り損ねが続出した。また、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンでも、長時間の列に並び、アトラクションを楽しむことができなかった。これらの経験から、同校は行き先変更を決定した。

「教育的効果を考えたときに、混雑が原因で訪問先を断念することがあるのは問題だ」と話すのは、広瀬啓二校長。昨年から修学旅行先の混雑について感じ始めた同校は、旅行会社から「関西は年間を通じて混雑している」と言われ、行き先変更を本格的に検討したという。

宿泊施設も頭を抱える

修学旅行を受け入れる宿泊施設側も厳しい状況に直面している。京都市内で長年修学旅行を受け入れてきた旅館では、物価高騰が影響を及ぼしている。旅館の担当者は、「仕入れ先を見直すなど工夫しているが、利益は圧迫されている」と話す。また、少子化によって一度に受け入れる児童生徒数が減少し、経営面でも厳しさが増しているという。

「修学旅行は学生ファーストでやってきたが、行き先変更が増えると、さらに厳しくなるのは確かだ」と、担当者は不安を隠せない。

北陸方面への人気シフト

修学旅行の行き先は、2年先に決定されることが多い。しかし、近年のトレンドとして、首都圏の学校では、従来の京都や大阪ではなく、北陸地方への修学旅行を選ぶ学校が増えてきている。特に、北陸新幹線の延伸が影響しており、アクセスの良さが評価されている。

日本修学旅行協会(東京)の高野満博事務局長は、「北陸方面に行き先を変更する学校は増えている」と話す。また、「修学旅行の内容も、見学型から体験型への見直しが進んでおり、行き先だけでなく、教育的なアプローチ自体も変わりつつある」と指摘する。

費用負担の増加

物価高騰が影響し、修学旅行の費用も上昇している。特に、円安が影響して海外から国内に修学旅行先を変更する高校が増えており、家庭への負担が大きくなっている。例えば、高知市立南海中学校では、例年通りの修学旅行日程を維持しつつ、費用を抑えるための工夫を施したという。

「家庭への負担が大きくなってはならない」と考える同校は、予算を変更せず、同じような内容を維持できるよう努力した。その一方で、旅行業界では、旅行代金の上昇が修学旅行を取り巻く大きな課題となっている。

修学旅行の未来

修学旅行は、生徒たちにとって大切な学びの場であり、教育的な意義がある。しかし、インバウンドの増加や物価高騰、そして混雑の影響が、行き先や内容に変化をもたらしている。今後は、旅行先の選定や費用の負担軽減に加えて、新しい形態の修学旅行のあり方が求められそうだ。

修学旅行の行き先が多様化する中で、関係者は教育的価値を保ちつつ、現実的な対応を進める必要がある。変化する社会状況の中で、次世代の修学旅行がどのように進化していくのか、注目される。

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