令和6年、訪日外国人観光客が過去最多を記録し、日本各地で観光業が盛況を迎える一方で、観光地の混雑やマナー違反といったオーバーツーリズム(観光公害)が大きな問題となっています。観光業の振興とともに、その対策として各自治体が導入を進めているのが「宿泊税」です。だが、山梨県の富士山北麓地域では、この宿泊税の導入が計画よりも大幅に遅れ、特に富士河口湖町や富士吉田市では、宿泊施設の形態の多様化が障害となっているのが現状です。
富士北麓地域の宿泊施設の現状
富士北麓地域は、年間を通じて多くの観光客が訪れるエリアとして知られ、宿泊施設の数も非常に多いです。富士河口湖町には約750の宿泊施設があり、ホテルや旅館はもちろん、近年ではグランピングや民泊、一棟貸しなど、さまざまなスタイルの宿が増えてきました。これらの多様な施設に対して宿泊税をどう徴収するか、調整が難航しているのです。
富士河口湖町の渡辺英之町長は、宿泊税の導入を町長選の公約に掲げて当選しました。しかし、宿泊施設の多様化により、税制設計に手間取り、当初予定していた令和8年度から、令和9年度以降に導入を延期することを決定しました。
制度設計の難しさと外部専門家の導入
宿泊税を導入するための作業部会は設立されたものの、さまざまな問題が浮上しました。多くの宿泊施設が観光連盟に加盟していないこと、そして、特に外国資本の施設が増えてきたことが大きな課題です。施設ごとの対応方法を決めることが難しく、関係者間で合意がなかなか得られないのです。
そこで、富士河口湖町は外部の専門家を雇い、宿泊施設の把握や税制設計についてアドバイスを受けることにしました。この専門家の力を借りることで、遅れていた宿泊税の導入準備が再び進むと期待されています。
周辺自治体との調整
富士河口湖町の宿泊税導入の遅れは、周辺の富士吉田市にも影響を与えています。富士吉田市では、町と同様に宿泊税を導入予定でしたが、富士河口湖町が計画変更したため、同様に導入時期を遅らせることになりました。堀内茂市長は、地域全体で統一的に宿泊税を導入したいという意向を示しており、そのためには足並みをそろえることが重要だと強調しています。
また、忍野村や山中湖村は、富士北麓地域全体での宿泊税導入に賛同していますが、富士河口湖町との調整が難航しているのが現状です。これから、富士河口湖町が宿泊税導入に向けた制度設計を進める中で、周辺自治体との協力も求められるでしょう。
宿泊税導入の重要性
宿泊税は、観光地での過剰な観光に起因する様々な問題を解決するために必要な財源を確保する手段です。観光地でのインフラ整備や、観光資源の保護、環境保護などに使われることが一般的です。すでに東京都や京都市、大阪府などでは導入されており、その効果が期待されています。
富士北麓地域でも、宿泊税は観光公害に対応するための財源となることが望まれていますが、事業者側の反発もあります。宿泊料金の値上げが予想されるため、宿泊業界との対話や協力が不可欠です。
観光業の持続可能な発展に向けて
観光業が地域経済に与える影響は計り知れません。しかし、その成長を持続可能な形で支えるためには、観光公害への対策が欠かせません。宿泊税の導入はその一環として非常に重要な役割を果たすはずです。
富士北麓地域では、宿泊施設の多様化とともに、宿泊税導入の準備が難航していますが、これは他の観光地でも見られる課題です。各自治体がどのようにこの問題に取り組んでいくのか、今後の動向に注目が集まります。
観光業の発展と地域資源の保護を両立させるためには、観光公害への対応策として宿泊税の導入が不可欠であり、そのための議論と調整を丁寧に進めることが求められています。
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