選挙のSNS規制はどう変わる?2027年施行「改正公選法・情プラ法」をやさしく解説
- 2026/7/17
- 選挙
- SNS規制, 改正公選法・情プラ法

2026年7月、SNSの偽情報対策を目的とした改正公職選挙法などが成立しました。2027年3月から施行され、AI生成物の表示義務化やプラットフォーム事業者の責務強化が柱となります。選挙の公正を守るため、投稿者、利用者、事業者が連携して偽情報の抑制に取り組む体制が整えられました。
表現の自由への配慮から新たな罰則は設けられませんが、虚偽情報の拡散は既存の法律で罰せられる可能性があります。有権者には情報の出所を確認し、安易に拡散しない慎重な姿勢が求められます。法整備と個人のリテラシー向上の両面で、デジタル時代の健全な選挙環境の構築を目指します。
スマホを開けば、選挙の情報が次々と流れてくる時代になりました。候補者本人の発信を直接読めるのは便利な一方で、真偽のあやしい動画や、誰が流したのかわからない悪口も一緒に広がっています。こうした状況を受けて、国会は2026年7月13日、選挙中のSNSの偽情報に対応するための改正公職選挙法と改正情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)を成立させました。施行は2027年3月1日で、まずは同じ年の春に予定される統一地方選挙から使われます。何がどう変わり、私たち一人ひとりは選挙のときに何に気をつければいいのか、できるだけかみくだいて整理します。
なぜ今、選挙とSNSのルールが見直されたのか
きっかけとしてよく語られるのが、2024年11月の兵庫県知事選挙です。この選挙ではSNSが大きな役割を果たしましたが、同時に真偽の確かめようがない情報や、特定の人物への激しい攻撃が一気に広がりました。相手の候補や告発した人を追い詰めるような投稿、報道機関への強い批判もあふれ、SNS上の言葉の暴力に耐えかねて職を辞した地方議員まで出ました。
選挙は、限られた期間のなかで有権者が判断を下す場です。投票日までに嘘や加工された映像が広まってしまうと、あとから「間違いだった」と訂正されても、結果は変わりません。生成AIの進歩で、本人が言ってもいないことを言ったように見せる動画も簡単に作れるようになりました。こうした危うさに、これまでのルールでは追いつけなくなっていたのです。今回の法改正は、自民党や日本維新の会、国民民主党、参政党など与野党6党が足並みをそろえて共同で提出し、幅広い会派の賛成で成立しました。特定の党だけが押し進めた法律ではない、という点は押さえておきたいところです。
変わるのはこの4つ。AI表示の義務化が柱に
改正の中身は、大きく分けて4つあります。今回は公職選挙法が「投稿する人」を、情プラ法が「拡散させる場所」を受け持つ、という役割分担で組み立てられました。
一つ目が、いちばんの目玉であるAIの表示義務です。選挙運動や、特定の候補を落とすための運動に使う画像や動画で、生成AIを使って作ったり手を加えたりしたものには、「AIを使っている」とわかる表示を付けなければならなくなります。対象になるのは、実際に撮影された本物だと勘違いされるおそれがあるものです。だれが見ても作り物とわかるイラストのようなものや、色を整えた程度のごく軽い加工は対象外とされていますが、その線引きは今後の指針で詰められます。表示の義務を負うのは候補者や政党だけではありません。ふつうの有権者が投稿・拡散する場合も、内容が選挙運動にあたれば対象になり得ます。
二つ目は、インターネットを使う人みんなに向けた「責務」です。候補者について嘘を広めたり、事実をゆがめて選挙の公正を害したりしてはいけない、と法律にはっきり書き込まれました。三つ目が、大規模なSNSや動画サイト、検索サービスを運営する事業者への義務です。偽情報などが選挙に与える悪い影響をやわらげるための対策を求め、その実施状況を年に1回公表させます。具体的な中身は総務大臣がつくる指針にもとづいて各社が判断します。そして四つ目が、選挙運動用の電子メールに関するルールの見直しです。これまで候補者や政党しか送れなかったメールでの投票の呼びかけが、ウェブサイトやSNSと同じ扱いに整理され、一般の有権者にも広がります。これは規制を強める話ではなく、むしろネット選挙運動の自由を広げる方向の改正です。
罰則がないのはなぜ?「表現の自由」との難しい綱引き
意外に思うかもしれませんが、AIの表示義務にも、利用者の責務にも、新しい罰則は設けられませんでした。破ったからといって、それだけで直ちに罰せられるわけではないのです。理由は「表現の自由」への配慮にあります。選挙をめぐる言論を国が刑罰で直接取り締まれば、政治家への正当な批判や風刺までもが萎縮しかねない、という懸念があるためです。
ただし、罰則がないことと「選挙で嘘をついても許される」ことは、まったく別の話です。候補者の経歴について嘘を広めたり、名誉を傷つけたり、なりすましをしたりする行為は、これまでどおり公職選挙法や刑法で罰せられる可能性があります。新しい表示ルールを守らなかったうえに、中身が嘘だった場合には、既存の法律で責任を問われることもあり得るのです。
一方で、この慎重な仕立てには「実効性は未知数だ」という指摘もついて回ります。まじめな人ほど表示を付け、選挙を混乱させたい人は表示を付けない、という結果になれば、目的を果たせません。国会審議では、事業者の対策について総務大臣が指針をつくる点をとらえ、「行政が選挙運動の中身に関わる指針をつくるのは、議会制民主主義の観点から問題ではないか」という慎重論も出ました。報道の中には「次は罰則の議論になるかもしれない」と先を見通す見方もあり、今回の法律はあくまで出発点だと考えておくのがよさそうです。
有権者が選挙のときに気をつけたいこと
では、私たちは何に気をつければいいのでしょうか。むずかしく考える必要はありません。まず大切なのは、強い怒りや不安をあおる投稿ほど、すぐに広めないことです。心が動かされたときこそ、いったん立ち止まる。候補者に関する重い情報を見たら、その出どころはどこか、元の映像や発言の全体を確認できるか、本人や信頼できる別の情報源はどう説明しているか、この三つを確かめるだけでも受け取り方は大きく変わります。
見落としがちなのが、自分で作っていない投稿でも、リポストや引用で広めれば「拡散した人」として責任を問われうる、という点です。「紹介しただけ」では済まないことがあります。AIで画像や動画を作ったり加工したりして投稿するときは、本文だけでなく画像や動画そのものにも、AIを使ったとわかる表示を入れておくと安心です。また、ネットでの選挙運動ができるのは原則として投票日の前日までで、投票日当日に特定の候補への投票を呼びかけると違反になります。予約投稿の設定にも注意しておきたいところです。18歳未満の人は選挙運動そのものが禁じられている点も、あらためて覚えておきましょう。
残された課題と、私たちにできること
今回の改正は、これまで手つかずだった選挙とSNSの問題に、投稿する人・利用者・事業者のそれぞれが責任を負うかたちで一歩を踏み出した点で評価できます。とはいえ、課題も残ります。表示義務の対象は主に画像と動画で、本人が言っていないことを再現するAI音声や、大量に自動投稿するボットへの対応はこれからです。何が「嘘」なのかを、短い選挙期間中に誰がどう判断するのか、海外の事業者や海外アカウントにどこまで実効的に対応できるのか、といった宿題も見えています。国が「正しい情報」を一方的に決める仕組みにしないという原則を守りながら、悪質な行為には手続きを尽くして対応する。その両立をどう設計するかが、これからの焦点になります。
結局のところ、法律だけで偽情報を防ぎきることはできません。最後の守りは、有権者一人ひとりが「すぐに信じず、すぐに拡散しない」ことにあります。規制すべきは意見の中身ではなく、捏造やなりすまし、隠された資金、機械的な大量拡散、偽情報でお金を稼ぐ仕組みです。その線引きを社会で共有できるかどうかが、選挙の公正と表現の自由を両立させるカギになります。2027年の施行に向けて、総務省や選挙管理委員会からは今後もくわしい案内が出てくる見通しです。自分と大切な人の一票を守るためにも、続く動きに目を向けていきたいものです。




















