なぜ中国とロシアは金を買い続けるのか 「脱ドル化」の裏にある本当の狙い

なぜ中国とロシアは金を買い続けるのか 「脱ドル化」の裏にある本当の狙い

金価格が最高値を更新するなか、中国やロシアなどの中央銀行が金の保有を急いでいる。主な目的は米ドルへの依存を減らす脱ドル化や、経済制裁などの地政学的リスクへの備えだ。金は国家の信用に左右されない資産として、自国通貨の信用補完や資産防衛の手段となっている。

米国は依然として最大の金保有国でありドルの基軸体制を維持しているが、近年の金買いは既存の通貨秩序に対する各国の不安を反映している。この動きは、ドルの覇権に依存しない決済網の模索や、世界経済における静かな構造変化を象徴する現象と言える。

金の値段が過去に例のないほど高くなっている。2026年に入ってからニューヨーク市場では1トロイオンス5000ドルを超える場面もあり、その後は調整が入ったものの、1オンス4000ドル台という水準は、10年前と比べれば信じられないほどの高値だ。この金相場を語るうえで欠かせないのが、中国とロシアをはじめとする新興国の中央銀行による「金の爆買い」である。なぜ彼らはこれほどまでに金にこだわるのか。その答えは、単なる資産運用の話ではなく、アメリカの通貨覇権に挑む「脱ドル化」という大きな流れの中にある。今回は、ドルと金の歴史から現在の米中ロの駆け引きまで、順を追って分かりやすく解説していく。

すべては「ドル=金」の約束から始まった

ドルが世界の基軸通貨になった原点は、1944年にさかのぼる。第二次世界大戦が終わりに近づいたこの年、アメリカを中心とした連合国はニューハンプシャー州のブレトンウッズという場所に集まり、新しい国際通貨のルールを話し合った。ここで決まったのが、「アメリカはドルをいつでも金1オンス=35ドルの割合で交換します」という約束だ。つまりドルは、金と交換できることを国が保証した紙幣だったわけである。

この約束がなぜ世界中から信用されたかといえば、当時のアメリカが世界の公式な金準備のおよそ7割を独占するほどの量を保有していたからだ。これだけの金を持っている国が「いつでも交換します」と言うのだから、各国はドルを信頼して使うようになった。これが、今も続くドル基軸体制の出発点である。

ところが1971年、アメリカのニクソン大統領は金とドルの交換を突然停止してしまう。世に言う「ニクソン・ショック」だ。理由はベトナム戦争などで財政が悪化し、約束通りに金と交換し続けるのが難しくなったからだった。本来ならここでドルの信用は大きく揺らいでもおかしくなかったが、実際にはそうならなかった。すでに世界中の貿易や決済が「ドルで行う」という仕組みとして定着しきっていたため、金との交換がなくなってもドルは基軸通貨であり続けたのである。いわば、最初の信用の裏付けは金だったが、その後は「みんなが使っているから使う」という慣習そのものが、ドルを支える土台に変わっていった。

「いざという時は金がある」という最後の安心感

では、金との交換をやめた今、金はもう意味がないのかというと、そうではない。むしろ現代においても、金は「究極の信用」として特別な位置づけを保っている。

国債や紙幣というものは、あくまでその国の政府や中央銀行の信用を裏付けにした約束事にすぎない。もしその国が財政破綻すれば、紙幣はただの紙切れになってしまう可能性がある。ところが金は違う。どこの国の政府が発行したものでもなく、それ自体に価値がある「無国籍の資産」だ。誰かが破産しても、金の価値がゼロになることはない。

アメリカが世界最大となる約8133トンもの金を保有し続けているという事実は、まさにこの「最後の担保」としての役割を果たしている。仮に世界的な金融危機が起きてドルの信用が揺らぐようなことがあっても、「アメリカにはこれだけの金がある以上、最終的には支払い能力がある」という暗黙の安心感が、ドルという通貨全体を下支えしているのだ。

中国とロシアが金を買い増す本当の狙い

ここからが本題である。近年、中国とロシアの中央銀行は、金の保有量を積極的に増やし続けている。世界の金保有量ランキングを見ると、ロシアは約2330トン、中国は公表ベースで約2300トンを保有し、いずれも上位に入っている。ただし専門家の間では、中国は公表している以上のペースで金を積み増している可能性が高いとも指摘されている。

この動きの背景にあるのは、純粋な資産運用というより、かなり政治的な理由だ。特にロシアは2014年のクリミア併合、そして2022年のウクライナ侵攻をきっかけに、欧米諸国から厳しい金融制裁を受けた。ドル建ての資産を凍結されたり、国際的な決済網であるSWIFTから締め出されたりと、ドルに依存していたことが逆に弱点になってしまったのだ。

金であれば話は違う。金は現物として自国の中央銀行の金庫に保管しておける資産であり、他国が勝手に凍結したり差し押さえたりすることが極めて難しい。つまり、ドルという「他人の通貨」に頼るリスクを減らし、誰にも奪われない資産を手元に確保しておこうというのが、ロシアが金を買い続ける最大の理由なのである。実際、ヨーロッパ中央銀行(ECB)の分析でも、金融制裁を受けた国ほど金の保有比率を積極的に高める傾向があることが、データ上はっきりと確認されている。

一方の中国の狙いは、少し違う角度も持っている。中国は将来的に人民元を、ドルに代わる国際的な決済通貨として広めたいという野心を持っている。しかし、どこの国も知らない通貨をいきなり信用して使うわけにはいかない。そこで「うちの国はこれだけの金を裏付けとして持っていますよ」と示すことが、人民元の信用力を底上げする材料になる。金の保有量を増やすことは、中国にとって単なる保険であると同時に、自国通貨の国際的な発言力を高めるための布石でもあるわけだ。

こうした流れを受けて、ロシアの研究機関からは金を裏付けにした新たな貿易通貨の構想も出てきている。金とBRICS各国の通貨を組み合わせたバスケット型の決済手段をつくろうという試みで、まだ実験段階ではあるものの、ドルに頼らない決済網をつくろうという意志の表れだと言えるだろう。実際、世界の中央銀行が保有する金の量は2026年に入っても増え続けており、ECBは2024年末の時点で、世界の公的準備資産に占める金の割合がユーロを抜いてドルに次ぐ第2位になったと分析している。

金さえあれば基軸通貨になれるわけではない

ここまで読むと、「では金をたくさん持てば、その国の通貨が世界の基軸通貨になれるのではないか」と思うかもしれない。しかし現実はそう単純ではない。基軸通貨として世界中から選ばれるためには、金の保有量以外にも欠かせない条件がいくつもあり、今のところそれをすべて満たしているのはアメリカだけだというのが実情だ。

まず必要なのが、圧倒的な経済力と軍事力である。通貨の価値というのは、最終的にはその国の経済の強さや、有事の際にその価値を守り抜ける力によって支えられている。次に欠かせないのが、誰もが自由に取引できる巨大で開かれた金融市場だ。アメリカの国債市場や為替市場は24時間、世界中のどこからでも売買でき、これだけの規模と流動性を持つ市場は他に存在しない。そしてもう一つ重要なのが、法の支配と透明性である。ある日突然、政府の都合で資産を没収されるようなことがないという法的な信頼があってこそ、各国は安心してその通貨を持ち続けられる。

中国にはこの三つのうち、透明性や自由な市場という点でまだ大きな課題が残っている。資本の移動には規制がかかっており、政治的な判断で急に方針が変わるリスクも拭いきれない。だからこそ、中国やロシアがいくら金を積み増しても、それだけですぐにドルに取って代わることは難しいというのが、多くの専門家の見方である。

金価格の高騰が映す、静かに進む通貨秩序の変化

金相場が2026年に入って史上最高値を更新し、その後も高値圏で乱高下しているのは、こうした地政学的な緊張と無縁ではない。中東情勢の緊迫化や米国の金融政策への思惑など、目先の値動きにはさまざまな材料が絡んでいるが、その根っこには「ドルという一つの通貨に頼り続けることへの不安」が、世界中の中央銀行の間で静かに広がっているという事実がある。

中国とロシアの金買いは、ドルの覇権を今すぐ終わらせるほどの力を持っているわけではない。しかし、経済制裁というカードがいつでも自国に向けられうる時代において、「誰にも奪われない資産」を持っておきたいという各国の思惑は、これからも金相場を下支えしていくだろう。ドルと金、そして新興国通貨がせめぎ合う構図は、しばらく世界経済の大きなテーマであり続けそうだ。

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