
変更条文(現行/草案)と解説
この記事は、自由民主党が2012年に決定した「日本国憲法改正草案」を読み解き、現行憲法と比べてどこがどう変わるのかを、条文ごとに整理したものです。
焦点は大きく三つあります。第一に、前文や天皇の位置づけを通じて「国のかたち」をどう描き直すのか。第二に、9条をめぐる「国防軍」創設で安全保障の枠組みをどう組み替えるのか。第三に、「公益及び公の秩序」や緊急事態条項によって、国民の権利と国家の権限のバランスがどう動くのかです。
憲法は、ふだん意識しなくても、政治や行政の判断、学校や職場のルール、災害時の対応まで、社会の基礎を決めています。だからこそ、賛成か反対かを決める前に、まず「何が変わるのか」を正確に知ることが出発点になります。
第9条(平和主義の書きぶり)
草案(第九条)
第九条日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
現行(第九条)
第九条日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
解説
草案は、現行2項(戦力不保持・交戦権否認)を外し、その代わりに「自衛権の発動を妨げない」を明記します。文章の“骨格”が変わり、戦力の扱いを憲法で縛る構造から、自衛を前提に制度設計できる構造へ寄ります。
メリット
自衛の位置づけが条文上はっきりし、法体系(自衛隊・武力行使の根拠)を作りやすくなります。
デメリット
現行2項が担っている「戦力不保持/交戦権否認」という強い歯止めが消え、どこまでが“自衛の範囲”かを政治と法律運用に委ねる比重が増えます。
第9条の2(国防軍の新設)
草案(第九条の二)
第九条の二我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
2国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
3国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
4前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
5国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。
現行
(現行憲法には「国防軍」条文は存在しません。第9条2項で戦力不保持を定めます。)
解説
草案の核心の一つです。国防軍を憲法上に置き、指揮系統(首相を最高指揮官)と、国会統制、国際協調活動、さらに軍事裁判的な「審判所」まで枠組みを用意します。
メリット
制度の根拠が明快になり、非常時の指揮命令系統や活動範囲を法律で整備しやすくなります
デメリット
「公の秩序を維持」などの任務は幅が広く、内政領域への関与がどこまで及ぶかが争点になります。また「審判所」は、運用設計を誤ると人権保障との緊張が強くなります(上訴権保障は置いていますが、それでも論点は残ります)。
第9条の3(領土等の保全:新設)
草案(第九条の三)
第九条の三国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
現行
(現行憲法に同条文は存在しません。)
解説
国が領域と資源の確保に責務を負うことを、憲法の条文で宣言します。
メリット
領域・資源をめぐる政策(海洋、離島、防衛、資源開発)を、憲法理念として後押しします。
デメリット
「確保」という言葉は政策的に強く、具体策(監視強化、開発、規制)で国民負担や周辺国との緊張が高まる可能性があります。
第12条(自由・権利の位置づけ:責任/公益・公の秩序)
草案(第十二条)
第十二条この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。
現行(第十二条)
第十二条この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
解説
草案は、現行の「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に置き換え、さらに「責任及び義務が伴うことを自覚」と踏み込みます。権利制約の“言葉”が変わるのが最大のポイントです。
メリット
権利行使が社会全体に及ぼす影響を意識させ、秩序・安全重視の統治設計をしやすくします。
デメリット
「公の秩序」は解釈幅が広く、行政・立法が権利制約を正当化しやすくなる懸念が出ます。「公共の福祉」よりも制約方向に働くと評価されやすい表現です。
第13条(個人→人、公益・公の秩序)
草案(第十三条)
第十三条全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。
現行(第十三条)
第十三条すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
解説
「個人として」が「人として」へ。「公共の福祉」が「公益及び公の秩序」へ。尊重の度合いも「最大の尊重を必要とする」から「最大限に尊重されなければならない」へ言い回しが変わっています。
メリット
「最大限に尊重されなければならない」は、文としては国家側の義務を強めた形にも読めます。
デメリット
ただし、制約条件が「公益及び公の秩序」になることで、結局は第12条と同様に、権利制約の正当化がしやすい設計になり得ます。
第14条(平等:障害の有無を追加)
草案(第十四条)
第十四条全て国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、障害の有無、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2華族その他の貴族の制度は、認めない。
3栄誉、勲章その他の栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
現行(第十四条)
第十四条すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
②華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
③栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
解説
草案は差別禁止事由に「障害の有無」を入れます。一方で現行にある「いかなる特権も伴はない」の一文が、草案側では見当たりません(少なくともこの抜粋範囲では削られています)。
メリット
障害者差別の禁止が憲法レベルで明示され、解釈・立法の後押しになります。
デメリット
「特権を伴わない」の文言が外れることは、象徴的な意味の変化として議論になり得ます(実務影響は限定的でも、価値宣言としての差)。
第15条(選挙:日本国籍要件)
草案(第十五条)
第十五条公務員を選定し、及び罷免することは、主権の存する国民の権利である。
2全て公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。
3公務員の選定を選挙により行う場合は、日本国籍を有する成年者による普通選挙の方法による。
4選挙における投票の秘密は、侵されない。選挙人は、その選択に関し、公的にも私的にも責任を問われない。
現行(第十五条)
第十五条公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
②すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
③公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
④すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
解説
草案は、選挙で選ぶ場合の有権者について「日本国籍を有する成年者」と明記します。
メリット
選挙権の主体がより明確になります。
デメリット
現行は「成年者による普通選挙」までで、国籍は法律で設計する余地がありました。草案は憲法で国籍要件を固定する方向で、柔軟性が落ちます。
第16条(請願:条文構造変更)
草案(第十六条)
第十六条何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願をする権利を有する。
2請願をした者は、そのためにいかなる差別待遇も受けない。
現行(第十六条)
第十六条何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
解説
内容は近いですが、草案は2項に分けて明確化しています。
メリット
読みやすい(条文化の整理)という実務的利点。
デメリット
実質の不利益はほぼありません(論点は限定的)。
第17条(国家賠償:対象の書き方)
草案(第十七条)
第十七条何人も、公務員の不法行為により損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は地方自治体その他の公共団体…(※この箇所は引用元の表示範囲上、続きが次行にまたがります)
現行(第十七条)
第十七条何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
解説
草案は賠償主体を「国又は地方自治体その他の公共団体」と、より具体に書いています。
メリット
請求相手の範囲が条文上イメージしやすくなります。
デメリット
実務は法律(国家賠償法等)で運用されており、ここも実質論は限定的です。
第19条の2(個人情報:新設)
草案(第十九条の二)
第十九条の二何人も、個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない。
現行
(現行憲法に同条文は存在しません。)
解説
個人情報保護を憲法レベルで置く構造です。
メリット
監視社会化への歯止めとして機能し得ます。
デメリット
「不当」の線引きが争点になりやすく、捜査・行政・民間データ利活用との調整が難しくなります。
第20条(信教:ただし書き追加)
草案(第二十条)
第二十条信教の自由は、保障する。国は、いかなる宗教団体に対しても、特権を与えてはならない。
2何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3国及び地方自治体その他の公共団体は、特定の宗教のための教育その他の宗教的活動をしてはならない。ただし、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りでない。
現行(第二十条)
第二十条信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
②何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
③国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
解説
草案は、公的機関の宗教的活動禁止に「社会的儀礼・習俗的行為」のただし書きを付けています。
メリット
地鎮祭など、慣行的行事をめぐる線引きを条文上なだらかにできます。
デメリット
「習俗」の名で宗教色の強い行為が入り込む余地が広がる、と批判され得ます。
第21条(表現:目的による活動・結社の禁止)
草案(第二十一条)
第二十一条集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
2前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。
現行(第二十一条)
第二十一条集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
〔新設〕
3検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
解説
草案は、表現の自由を認めつつも「公益及び公の秩序を害する目的」の活動・結社を禁止する条文を追加します。
メリット
暴力的・破壊的な目的の組織への規制根拠を憲法側に寄せられます。
デメリット
目的認定は政治的になりやすく、政権に都合の悪い運動を「秩序を害する」と扱う危険が出ます。
第21条の2(説明責務:新設)
草案(第二十一条の二)
第二十一条の二国は、国政上の行為につき国民に説明する責務を負う。
現行
(現行憲法に同条文は存在しません。)
解説
「政府は説明しろ」を、理念ではなく憲法条文に置きます。
メリット
情報公開や説明責任の流れを、憲法が後押しします。
デメリット
何をどこまで説明すべきか(外交・安全保障・機密)で、解釈対立が起きやすい条文でもあります。
第24条(家族:社会の基礎単位、助け合い)
草案(第二十四条)
第二十四条家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
2婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
3家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
現行(第二十四条)
第二十四条婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
②配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
解説
草案は、現行にない「家族条項」を追加し、家族の尊重と助け合いを明文化します。
メリット
少子化対策・福祉・介護などで「家族」の位置づけを制度的に強めやすい。
デメリット
「助け合わなければならない」は、家庭内の負担を国家が前提化する方向にも働き得ます。家族の形が多様な社会では、排除や圧力の温床になる懸念が出ます。
第25条の2(環境保全:新設)
草案(第二十五条の二)
第二十五条の二国は、国民と協力して、国民が良好な環境を享受することができるようにその保全に努めなければならない。
現行
(現行憲法に同条文は存在しません。)
解説
環境を憲法上の政策課題として位置づけます。
メリット
環境政策の正当性が強まり、立法や行政の根拠に使いやすい。
デメリット
「良好な環境」の中身は政策論争になり、開発・産業・エネルギーとの調整が難しくなる局面があります。
第25条の3(在外国民保護:新設)
草案(第二十五条の三)
第二十五条の三国は、国外において緊急事態が生じたときは、在外国民の保護に努めなければならない。
メリット/デメリット(要点)
国の責務が明確になりますが、実行手段(退避、輸送、安全確保)をどう用意するかで、防衛・外交の負担や権限設計の議論が避けられません。
第25条の4(犯罪被害者:新設)
草案(第二十五条の四)
第二十五条の四国は、犯罪被害者及びその家族の人権及び処遇に配慮しなければならない。
メリット/デメリット(要点)
被害者支援の憲法的後ろ盾になりますが、刑事手続のバランス(被告人の権利との調和)が焦点になります。
第92条〜第95条(地方自治:章の設計変更)
草案(第九十二条)
第九十二条地方自治は、住民の参画を基本とし、住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として行う。
2住民は、その属する地方自治体の役務の提供を等しく受ける権利を有し、その負担を公平に分担する義務を負う。
草案(第九十三条)
第九十三条地方自治体は、基礎地方自治体及びこれを包括する広域地方自治体とすることを基本とし、その種類は、法律で定める。
2地方自治体の組織及び運営に関する基本的事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律で定める。
3国及び地方自治体は、法律の定める役割分担を踏まえ、協力しなければならない。地方自治体は、相互に協力しなければならない。
草案(第九十四条)
第九十四条地方自治体には、法律の定めるところにより、条例その他重要事項を議決する機関として、議会を設置する。
2地方自治体の長、議会の議員及び法律の定めるその他の公務員は、当該地方自治体の住民であって日本国籍を有する者が直接選挙する。
草案(第九十五条)
第九十五条地方自治体は、その事務を処理する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
現行(第九十二条〜第九十四条)
第九十二条地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
第九十三条地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
②地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
第九十四条地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
解説
草案は、地方自治を「住民の参画」から描き直し、住民の「権利」だけでなく「負担を公平に分担する義務」も書き込みます。さらに地方自治体の区分(基礎/広域)という制度像を憲法に寄せています。
メリット
道州制など大きな制度改革を含め、地方自治の再設計をしやすい。
デメリット
地方の「種類」を法律に委ねる幅が広く、自治のかたちが国の制度設計で大きく変わり得ます。住民義務の明記も評価が割れます。
第98条〜第99条(緊急事態:新設章の中核)
草案(第九十九条:効果)
第九十九条緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。
2前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。
3緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。
4緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
現行
(現行憲法に「緊急事態宣言」「法律と同一効力の政令」等の規定は存在しません。)
解説
ここは政治的に最も燃えやすい条文の一つです。内閣が「法律と同一効力の政令」を作れる。首相が財政支出など処分を行える。国民は指示に従う義務を負う。さらに衆院解散の停止や任期特例まで視野に入れます。
メリット
災害・有事で、立法を待たずに意思決定できる場面があります。統治の即応性は確実に上がります。
デメリット
権力が内閣に集中します。「事後承認」が基本だと、実際には既成事実が積み上がりやすい。国民の「従わなければならない」も強い文言で、運用次第で人権・言論への圧力になり得ます(条文は“最大限尊重”と書きますが、緊急時は解釈が荒れます)。
第100条(改正手続:発議要件を緩和)
草案(第百条)
第百条この憲法の改正は、衆議院又は参議院の議員の発議により、両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を得なければならない。この承認には、法律の定めるところにより行われる国民の投票において有効投票の過半数の賛成を必要とする。
2憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、直ちに憲法改正を公布する。
現行(第九十六条)
第九十六条この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
②憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
解説
草案は、国会発議のハードルを「各議院の3分の2」から「各議院の過半数」に下げます。国民投票の過半数要件は維持します。
メリット
改正の“入口”が開き、憲法を時代に合わせて直しやすくなります。
デメリット
改正提案が頻発しやすくなり、憲法の安定性が揺らぐ恐れがあります。多数派が短期政治で憲法に触れるリスクも増えます。
第101条・第102条(最高法規/憲法尊重:国民にも義務)
草案(第百一条)
第百一条この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
2日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
草案(第百二条)
第百二条全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
2国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。
現行(第九十八条・第九十九条)
第九十八条この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
②日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
第九十九条天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
解説
現行は「公務員の尊重擁護義務」です。草案はここに加えて、国民にも“尊重しなければならない”義務を置きます。
メリット
憲法を社会規範として根付かせる、という思想には合います。
デメリット
「国民の義務」を憲法に置くこと自体が、人権保障の設計思想と緊張しやすい。特に、政治運動や表現の自由と衝突する場面で、“憲法尊重”が圧力の口実にならないかが論点になります。
この草案が投げかける一番大きな問い
この改正草案は、ひと言でいえば「国家の即応性と統治の輪郭を太くする」一方で、「自由や人権の“制約条件”の言葉を強め、国家と国民の関係を“義務”の方向にも伸ばす」設計です。
だから論点はシンプルです。
非常時に強い国を作る代わりに、平時の自由の扱いをどう守るのか。
ここを詰めないと、賛成も反対も、どちらも空中戦になります。
参考サイト
自民党 憲法改正に関してまとめた資料
















