「大阪副首都構想」は時代遅れか──本当に必要なのは“分散型国家”という発想だ

大阪副都心構想

「東京一極集中を是正し、大阪を“第二の首都”に」──そんなキャッチーな響きで注目される「大阪副首都構想」。

だが、冷静に見ればその中身は、防災・国家運営の合理性よりも政治的・地域的な思惑に偏った構想だ。

南海トラフ地震の想定震源域に位置する大阪を「バックアップ首都」に据える矛盾、数兆円規模に及ぶ膨大なコスト、そして効果の不確実性。

いま日本に必要なのは「大阪に次ぐ首都」ではなく、“どこも止まらない日本”をつくる分散型国家戦略である。

大阪副首都構想の概要──東京依存脱却を掲げた地域プロジェクト

大阪副首都構想は、大阪府と大阪市が中心となり、東京一極集中を是正するために大阪を「副都」として位置づける構想だ。

狙いは、災害時の首都機能バックアップ、経済中枢の二極化、行政効率化など。夢洲(ゆめしま)やうめきた再開発を中核に、国際的MICE拠点、IR(統合型リゾート)誘致なども連動している。

確かに「西日本の中枢都市としての大阪」というブランドは強い。だが、この構想が“国家戦略”としてどこまで実効性を持つのかは、極めて疑わしい。

理由は単純──地理的にも制度的にも“バックアップ都市”としての条件を満たしていないからだ。

矛盾だらけの前提──南海トラフ震源域にバックアップ首都?

南海トラフ地震が起これば、最も深刻な被害を受ける地域のひとつが大阪湾岸である。津波、液状化、停電、交通・通信寸断──そのすべてが予測されている。

東京が機能不全に陥るような大規模災害のとき、大阪も同時被災する可能性が高い。つまり、「副首都大阪」は**バックアップではなく“共倒れ候補”**になりかねない。

本来、首都機能の分散とは、災害の重複リスクを避けるために行うものだ。その観点から見れば、**大阪は「最も不適切な候補地の一つ」**と言っていい。それでも大阪が選ばれるのは、政治的利害と地域振興という「現実政治上の事情」にすぎない。

巨額コストに見合わない実効性

大阪副首都構想を本格化させるには、庁舎建設、交通・通信インフラ整備、住宅や公共施設の再配置などが必要だ。

過去の首都機能移転試算(国会等移転審議会など)を基にすれば、10兆〜20兆円規模の投資が必要と見られている。たとえ「部分移転」や「段階的整備」としても、数兆円単位の支出は避けられない。

問題は、そのコストに見合うリターンがあるかどうか。

経済波及効果や雇用創出は一時的で、防災・行政効率の観点では“費用対効果が極端に低い”。現実には、地域開発や府市統合を正当化する「政治的看板」として使われている面が強い。

日本海側にこそ「真のバックアップ都市」の条件がある

災害リスクと安全保障の観点から見れば、日本海側や内陸部の方が圧倒的に合理的だ。金沢・富山・新潟・長野などは、南海トラフや首都直下地震の想定域から外れており、地盤も安定している。

交通・通信・エネルギーの自立度も高く、実際に内閣府の災害対策拠点候補としても言及されたことがある。

つまり、「副首都=大阪」という前提を外せば、より安全・低コスト・高効率な選択肢はいくらでもあるのだ。

大阪案は、地理的にも論理的にも“副首都”という名称に値しない。

本当に目指すべきは「多極分散型ネットワーク国家」

「どこを第二の首都にするか」ではなく、「どうすれば国全体が止まらない構造をつくれるか」に発想を転換すべきだ。

行政、通信、金融、エネルギー、データ、教育など、各機能を全国に分散して配置する──それが令和型の副首都戦略である。

機能有力地域理由
政治・行政バックアップ松本・岡山・金沢地盤安定・交通アクセス良好
データ・IT・通信長野・熊本・福井データセンター立地最適地
金融・経済中枢名古屋・福岡産業・国際接続性が高い
学術・研究仙台・広島・つくば大学・研究機関が集中
食料・物流・エネルギー新潟・帯広・鹿児島自給可能・輸送拠点として有利

こうした“分散ネットワーク型”構造にすれば、災害・サイバー攻撃・パンデミックのどれが起きても、**国家が継続できる構造的耐性(レジリエンス)**を持つ。

しかも地方の雇用・税収・人口定着を促進し、地方創生にも直結する。

コストは抑えられ、効果は全国に波及

分散型モデルは、大阪一極型のように巨額の都市再開発を必要としない。既存の自治体・大学・研究施設・自衛隊基地・通信網などを活用すれば、全体コストは10兆円規模から数兆円規模にまで削減可能だ。

そして、その投資は一地域ではなく、全国に波及していく。まさに「安全保障」と「地方創生」を一石二鳥で実現する構造だ。

「副首都大阪」は看板であり、戦略ではない

大阪副首都構想は、理念としては美しいが、現実には“地域再生の政治スローガン”に過ぎない。
災害リスク、コスト、分散効果のいずれをとっても、国家戦略としての整合性は弱い。
真に日本を強くするのは、一都市への集中ではなく、全国の機能分散によるネットワーク国家構築だ。

言い換えれば、

「副首都をつくる」より、「国を止めない仕組みをつくる」ほうが、よほど本質的。

大阪一極型構想を超えて、全国をつなぐ分散型国家へ──。それこそが、これからの日本が取るべき「真の副首都戦略」である。

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