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- 大阪の民泊マンション化が急増|住民の退去トラブルと苦情急増に制度の限界あらわに

大阪で拡大する“民泊マンション” 住民からは「制度に欠陥」と不安の声
訪日観光客の急増とともに、大阪市で“特区民泊”と呼ばれる民泊施設が急増している。しかしその裏では、地域住民との摩擦や苦情が急増し、大きな社会問題となっている。特に最近は、もともと賃貸マンションとして建設された物件が、丸ごと民泊用の施設に転用される事例が増えており、「住宅地にホテルができるようなもの」といった反発が強まっている。
大阪市此花区では6月末、新築14階建てのマンションが212室全て民泊として運営されることになった。USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に近い立地を活かし、年間19万人の宿泊客を見込んだ大規模プロジェクトだ。元々は一般向けの賃貸物件として計画されていたが、方針を変更して民泊専用施設に転用された。
施設を運営する事業者は、周辺住民に向けて複数回説明会を開いたとし、市にも正式な認定を申請。市は6月下旬に認定を下したが、近隣住民の間では不安と反対の声が広がっている。
近くに暮らす住民によると、この地域には子育て世帯も多く、見知らぬ短期滞在者の出入りが治安や生活環境に悪影響を及ぼす可能性があると危惧されている。住民グループは、施設の認定に反対する要望書とともに、2万人以上の署名を市に提出した。代表を務める男性は、「こうした大規模な宿泊施設が、マンションのように建設・運用できる制度自体に問題がある」と強調する。
一方で、大阪市は「施設の規模だけを理由に認定を拒むことは現行法上できない」と説明し、例外的に“治安や生活環境への配慮を求める要請書”を事業者に出す対応を取った。こうした要請書の交付は初めてで、市としても異例の措置である。
運営側は「防犯対策としてカメラの増設などを進め、今後も地域との協議を続ける」としているが、住民の懸念は容易には消えそうにない。
苦情件数は5年間で5倍超 主な内容は「ごみ」「騒音」
大阪市では、コロナ禍明け以降に特区民泊の申請が急増。2024年4月末時点での認定数は6,000件を超え、全国の特区民泊の約9割が大阪市に集中している。これは大阪市が観光業に力を入れていること、また民泊の規制が比較的緩やかであることも一因だ。
しかし、その一方で市民からの苦情も急増。2021年度にはわずか100件弱だったのが、2023年度には550件を超えるまでに増加した。その内容の多くが、「深夜の騒音」「ゴミの不法投棄」「エントランスでの迷惑行為」など、住環境に直接関わるものだ。
特に深刻なのは、賃貸マンションとして入居していた住民が、民泊への転用を理由に“立ち退き”を求められるケースだ。大阪市中央区の築20年のマンションでは、入居者が管理会社から「契約終了」を一方的に通知され、「早期退去なら支援金30万円支給、11月末以降はゼロ」とされた。住民は困惑しながら「ここは生活の場だったはず。観光客のために追い出されるなんて」と語る。
オーナー企業の代表は、「古い建物では収益が見込めない。外国人観光客が増えている今こそ、民泊への転用がビジネスとして妥当」と説明。地域住民の同意を得たとするが、実際には説明会や個別協議が不十分との指摘もある。
国は自治体に“丸投げ” 制度の緩さが問題に
こうした状況について、制度を所管する内閣府の担当者は「実施エリアや基準の設定は自治体の判断に任せている」として、全国一律の基準強化には消極的な姿勢だ。
しかし、現場ではすでに限界が見え始めている。大阪市の横山市長は「市として対応可能な範囲を整理し、住民との摩擦を減らす方法を模索したい」とコメント。市は複数部署による対策チームを立ち上げ、制度の見直しや苦情対応の強化を検討している。
専門家も制度の見直しを訴えている。阪南大学の松村嘉久教授(観光地理学)は、「特区民泊はホテルと異なり、フロント設置や24時間管理などの義務がない。人件費を抑えて運営できる分、事業者にはメリットがあるが、住民との摩擦が生まれやすい」と指摘する。さらに、「賑わいを生む空間と、日常生活の空間は明確に分けるべき。立地条件や規模に応じた制限が必要」と話す。
住民と観光客、どちらも尊重できる制度へ
今後の焦点は、「いかにして住民の生活を守りながら、観光業を発展させるか」にある。事業者の利益追求だけでなく、周囲の住民や地域社会への責任をどう果たすかが問われている。
制度を見直す際には、以下のような観点が重要となるだろう。
- 住宅密集地での認定基準の厳格化
- 騒音・ゴミ対策などに関する罰則の導入
- 住民との協定内容に法的効力を持たせる制度設計
- 施設運営の透明化と定期的な第三者チェック体制の構築
観光立国を目指す日本において、民泊は大きな経済的ポテンシャルを持つ一方、地域との摩擦を避ける仕組み作りは不可欠だ。大阪のケースは、その制度設計の限界と、行政の対応力が問われる事例として、今後の全国的な議論の参考になるだろう。
住民にとって安心できる生活環境と、観光客にとって快適な滞在環境。その両立こそが、真の“民泊成功モデル”となる。制度の持続可能性は、そこにかかっている。
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