在韓米軍4,500人撤収案が再浮上 トランプ政権の再配置戦略に国防総省も揺れる

在韓米軍の再編案が浮上 トランプ政権、4,500人の撤退を検討

米トランプ前政権が、韓国に駐留する米軍の一部を引き揚げ、グアムやその他のインド太平洋地域に移す案を検討していたことが米紙報道などで明らかとなった。対象は約4,500人に上り、韓国駐留兵力のおよそ6分の1に相当する。国防総省内では、最終的な決定には至っていないが、再編計画の一案として真剣に議論されているという。

この動きは、トランプ氏が政権1期目から主張してきた「同盟国の防衛負担増」を象徴するもので、北朝鮮との対話と圧力を交錯させる外交戦略の一環ともみられる。だが、韓国のみならず、日本を含むアジアの同盟諸国の安全保障体制に与える影響は少なくない。

在韓米軍縮小案、背景に「中国シフト」と「コスト削減」

国防総省の内部では、インド太平洋地域における米軍の再配置について、さまざまな観点から検討が進められてきた。その背景にあるのは、中国の軍事的台頭に対応するため、地域戦力の機動性を高めたいという戦略的意図と、同盟国による防衛費負担を見直すという予算上の問題である。

韓国は現在、約28,500人の米軍を受け入れており、朝鮮半島有事に備えた即応体制の柱とされてきた。一方で、トランプ氏は過去に繰り返し「韓国は米軍駐留の費用を十分に負担していない」と不満を示しており、米軍縮小の可能性を示唆していた。

今回報道された案は、こうしたかつての主張と一致しており、仮に再び政権を握った場合に実行される可能性があるとの見方も出ている。

米軍幹部は警鐘「北朝鮮抑止力が損なわれる」

米インド太平洋軍のサミュエル・パパロ司令官は今年4月、上院軍事委員会で「在韓米軍の削減は、北朝鮮が軍事的挑発に出るリスクを高める」との見解を明確にした。韓国に展開する米軍は、単に駐留するだけでなく、北朝鮮に対する強い抑止力を発揮しているという。

さらに、在韓米軍のブランソン司令官も、兵力削減が朝鮮半島だけでなく、東アジア全体の安全保障バランスに悪影響を及ぼすと懸念を表明。米軍内では、拙速な再配置により同盟国との信頼関係が揺らぐことを危惧する声が根強い。

一方で、アジア戦略の見直しを主張する一部の国防政策専門家は、「中国に対応するには、韓国よりグアムや日本の戦力強化の方が合理的」とする立場を取っている。

韓国国内と近隣国の反応 同盟のゆくえを左右する一手

韓国国内では、報道を受けて不安の声が広がっている。特に、北朝鮮が年始以降に対話路線を完全に放棄し、南北関係の悪化が続く中で、米軍の削減が現実味を帯びれば、国防戦略の大幅な見直しが求められることになる。

また、日本やフィリピンといった他のインド太平洋地域の米同盟国にとっても、在韓米軍の動向は無関係ではない。中国が台湾や南シナ海で圧力を強める中、米国の東アジアプレゼンスの維持は、地域安定の鍵とされている。

韓国外交部の当局者は、「米政府から公式な通知は受けていないが、あらゆる可能性を想定している」とコメント。日本政府も非公式ながら動向を注視しているとされる。

今後の展望 バイデン政権の対応とトランプ再登板の影響

現在はバイデン政権が続いており、在韓米軍の規模については現状維持が基本方針とされているが、2024年の大統領選でトランプ氏が再選される可能性が取り沙汰される中、こうした過去の検討案が再び浮上する余地は十分にある。

さらに、米国では国家防衛戦略(NDS)の見直しが進んでおり、「中国中心の再構築」が柱になる見通しだ。こうした文脈で見れば、今回の報道は突飛なものではなく、むしろ将来の布石として読み解く必要がある。

米韓同盟のあり方や、アジアの安全保障戦略にとって重大な意味を持つ今回の動き。単なる部隊移動にとどまらず、今後の東アジア全体の地政学的構図に大きな影響を与える可能性がある。

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