EUが2035年エンジン車禁止を見直しへ――EV万能神話が崩壊、日本メーカーに追い風も「本当に環境に良いのか」

欧州連合(EU)が長年掲げてきた「2035年までにガソリン車・ディーゼル車など内燃機関車の新車販売を禁止」という大方針を見直す方向で調整している。EU欧州委員会は12月16日、禁止をやめて排出ガスを2021年比で90%削減するという目標に切り替える案を明らかにした。残りの排出は、再生可能燃料や低炭素鋼材などで埋め合わせれば、条件付きで内燃機関車の販売を認めるという内容だ。これまでの「ゼロエミッション車100%義務」という厳格なルールからの大きな後退となる。

この政策変更の背景には、電気自動車(EV)の普及の鈍化や、競争激化による欧州メーカーの苦境がある。中国や他国からのEVが増える中、従来型エンジン車だけでなくハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド(PHV)、合成燃料車などにも活路を求める声が強まっていた。日本メーカーにとっては、HV/PHEVの強みを活かせるチャンスが戻る可能性もある。

だが、これは単なる「環境政策の調整」ではない。EV万能という脱炭素神話の破綻が露呈しつつあるという批判の声が強まっている。EVは本当に環境に良いのか。政策は単なる利権と利益保護だったのではないか――そうした疑問が欧州でも政策決定の核心になってきた。

EVシフトの失敗と現実

EUがエンジン車禁止の撤回を検討する最大の理由は、EVの伸び悩みだ。欧州ではEV販売台数の増加が鈍化しており、ある年では前年を大きく下回ることさえあった。これが自動車メーカーや加盟国政府に「2035年までに排ガス車を完全になくすのは現実的ではない」という判断を強めた。

EVの弱点は、次のような現実に直面している。

まず、高い価格だ。EVは内燃機関車より車両価格が高く、消費者の負担が大きい。補助金が続かないと、販売は伸び悩む。

次に、充電インフラの不十分さだ。充電スタンドの数が走行距離や地域ごとに偏り、遠出や都市間移動での不安が消えない。

さらに、航続距離の限界もある。ガソリン車と比べて長距離移動での時間と手間がかかるケースが多い。これは特にトラックやバスの電動化が難しい理由にもなっている。

こうした課題は「環境政策がうまく現場に合っていない」という批判を招いた。

EVは本当に環境に良いのか?

一般にEVは「走行中にCO2を出さない=環境にやさしい」とされる。しかしそれは建前に過ぎない場合がある。理由は次の通りだ。

EVに使われる電気の多くが化石燃料由来である国・地域がまだ多い。つまり、走行で排出しなくても、電力を作る過程でCO2が大量に発生している現実がある。

さらに、バッテリー製造時の環境負荷が非常に大きいというデータもある。EVのバッテリーを作るには大量の資源とエネルギーが必要で、結果として全体のCO2削減効果が限定的になるケースも指摘されている(電力構成や走行距離によっては、内燃機関車より総合的な環境負荷が大差ないという分析すらある)。

こうした点を無視して「EV=エコ」という簡単な論理を政策に組み込んできたこと自体が、政策不整合の典型例だ。

EUの政策変更は妥当か

EUは今回の見直しを「産業競争力と気候変動対策のバランスを取るため」と説明している。だが、裏を返せば圧力に屈した結果だ。ドイツやイタリアの政府が強く柔軟化を求め、自動車業界のロビー活動も激しかった。これがEU規制の後退につながった面は否定できない。

政策本来の目的が環境保護でありながら、結局は業界保護や雇用維持といった経済的利権が優先されたという見方も正当性を持つ。

日本勢への影響

この動きは日本の自動車メーカーには明らかな追い風だ。トヨタやホンダなどはHV/PHEV技術に強く、これまでEU規制では不利とされていた。しかし、条件付きで内燃機関車が認められる見込みとなり、欧州市場での選択肢が広がる可能性が出てきた。


EUの禁止見直しは、単に規制が緩むというだけではなく、EVシフトという「聖域」に疑問が投げかけられた瞬間だ。政策主導で進められたEV推進は、必ずしも消費者ニーズや技術的現実を踏まえていたとは言えない。利権と環境政策が混ざった結果、現場の合理性が置き去りになっていた可能性が高い。

EVは確かに未来技術のひとつだ。しかし、万能と断言できるほど成熟しているとは言えない。価格・環境負荷・インフラ・競争力の四重苦を抱える現状は、「エコ利権」が政策を歪めてきた証左に見える。

表:EVと内燃機関車(HV含む)の比較(簡易)

項目EV内燃機関車(HV含む)
走行時CO2排出なし排出あり(HVは少)
電力・燃料由来の総CO2電力次第石油依存
価格高い安い・中価格帯あり
航続距離短い/充電待ち時間あり長距離優位
インフラ充電網が未整備地域ありガソリン網成熟

関連記事

おすすめ記事

  1. 中国旗と宮崎の水源
    外国資本が宮崎の森林717haを取得 中国語話す代表に住民や議会から不安の声 宮崎県都城…
  2. 重要な土地を外国資本に奪われるリスク 政府の動きの遅さが招く“静かなる有事” 政府が初…
  3. 再エネ賦課金、過去最高の月1600円超 2032年まで増加見通し
    再エネ賦課金、過去最高へ 月1600円超の上乗せ負担に「国民の限界超えた」と専門家が警鐘 太…
  4. 2025年以降に予定されている増税・負担増のリストを作りました。 以下は画像を基に作成した「…
  5. 「ニセコ化」した野沢温泉村で現れる観光公害とその影響 長野県の野沢温泉村は、昔から温泉と自然…

新着記事

  1. 比例復活
    小選挙区で落ちても国会へ 比例復活が生む根深い違和感 衆議院選挙では、小選挙区で落選しても比…
  2. 中国からの世論操作情報231万件
    中国からの世論操作情報231万件 台湾統一を狙い、虚偽情報を拡散 台湾の情報機関「国家…
  3. 街中のデータセンター
    データセンター建設反対運動の背景と地域への影響 最近、日本国内ではデータセンターの建設に反対…
  4. 中国軍「台湾上陸訓練」
    判明した「台湾対岸」上陸訓練の輪郭 2025年7月16日、中国南部の広東省・汕尾市の沖合で、…
  5. 南鳥島沖国産レアアース掘削
    南鳥島での国産レアアース採掘プロジェクト:未来の資源供給を担う可能性 近年、世界的に注目され…
  6. コロナ・感染症対策
    コロナ禍の混乱を“次の備え”に変える コロナ禍は、世界が同時に未知の病気へ向き合った特殊な局…
  7. 防衛三文章
    日本の安全保障政策を大きく変えるものとして注目を集めているのが「防衛三文書」です。これには、「国家…
  8. アメリカのトランプ大統領が66の国際機関からの脱退を指示
    2026年1月7日、アメリカのトランプ大統領は、アメリカが66の国際機関から脱退する方針を発表しま…
  9. グリーンランドのレアアース
    米国のトランプ政権がグリーンランドの領有に向けて動き出し、米軍の活用を含む選択肢を検討していると、…
  10. 国会議員の資産公開制度とは:1993年に始まった「政治とカネ」対策 国会議員の資産公開は、「…
ページ上部へ戻る