
ナフサは「原油の中間留分」――粗製ガソリンの正体
ナフサは、原油を加熱して蒸留(分ける)したときに取れる、ガソリンに近い性質の液体です。一般に沸点がおよそ30〜200℃程度の範囲にある炭化水素の混合物で、「粗製ガソリン(半製品ガソリン)」とも呼ばれます。種類としては軽質・重質に分けて扱われることもあります。
ここで大事なのは、ナフサは「燃やして走るための燃料」というより、むしろ「ものを作るための原料」としての役割が大きい点です。プラスチックや合成繊維、ゴム、洗剤など、現代生活の材料の出発点になっているため、業界ではナフサを「石油化学の米(主食)」のようにたとえることがあります。
熱で分解して“材料”に変える――プラスチックはここから始まる
ナフサの代表的な使い道は、ナフサ分解(クラッキング、熱分解)です。高温の炉でナフサを分解すると、エチレン、プロピレン、ブタジエン、そしてベンゼン・トルエン・キシレン(いわゆるBTX)などの基礎原料が取り出せます。これらは石油化学製品の「元ダネ」で、工場で分けて回収し、さらに別の反応で多様な材料にしていきます。
だから、レジ袋やペットボトル、食品トレーやお弁当容器といった容器包装だけでなく、衣類(ポリエステル、ナイロン等)、自動車のタイヤに使われる合成ゴム、塗料・接着剤、洗剤やシャンプー、化粧品や医薬品の一部まで、ナフサの“子孫”が入り込んでいます。見えにくいですが、ナフサは生活の裏側で広く働いているわけです。
ガソリン車が減ると何が起きる?――「連産品」が生む供給のクセ
ここで近年よく出る論点が、「ガソリン需要が減ると、ナフサはどうなるのか」です。原油から製品を作る精製は、ガソリンだけ、ナフサだけを好きな割合で取り出せるわけではありません。原油を蒸留すると、ガソリンや灯油、軽油、重油などが“ある程度の割合で同時に”生まれる性質があり、これを「連産品」と呼びます。
もちろん製油所には、重い油を分解して軽い油を増やす二次装置などがあり、需要に合わせて調整はします。それでも、需要構造が大きく変わると、全体のバランス調整が難しくなる場面が出てきます。もしガソリン車が減ってガソリンの需要が落ち、精製側が燃料生産を細らせる方向に動くと、「同じ原油から一緒に出てくる」ナフサの供給も、国や地域、装置構成によっては影響を受けやすくなります。
一方で、プラスチックなど石油化学製品の需要は、世界全体ではなお伸びやすい分野だと指摘されています。国際エネルギー機関(IEA)は、石油需要の伸びの中で石油化学が大きな割合を占めていく見通しを示しています。
つまり「燃料は減るのに、材料は要る」という綱引きが起きやすい。これが、ナフサをめぐる“需給のクセ”です。
価格はどう生活に跳ね返る?――ナフサは“材料コスト”の体温計
ナフサは、石油化学の原料として取引され、価格は樹脂や化学品のコストに波及しやすい存在です。日本では輸入ナフサのCIF価格(運賃・保険料などを含む輸入価格)を基にした統計も整理されており、ナフサ価格が石油化学製品の価格に影響する、という位置づけが明示されています。
ナフサが高くなれば、すぐにすべてのプラスチック製品が同じ幅で値上がりするわけではありません。契約形態や在庫、代替原料の有無などで時間差も出ます。ただ、容器包装、日用品、部品材料などに広く入る以上、「材料コストの上がり下がり」が社会全体にじわっと伝わりやすいのは確かです。ナフサは、生活者から見えにくい場所で物価に触れる“体温計”のような役割を持っています。
次の一手――COTC、バイオナフサ、ケミカルリサイクル
このねじれを前提に、業界は「燃料中心」から「化学原料中心」へ寄せる技術を強化しています。代表例がCOTC(Crude Oil to Chemicals:原油から化学品へ)です。燃料をあまり作らず、原油をより直接に化学原料へ回す発想で、アラムコがSABICと進める「原油からの化学品直接製造(C2C)」の取り組みなどが知られます。
加えて、原料そのものを石油以外に寄せる動きもあります。バイオマス由来の原料から作った「バイオ(バイオマス)ナフサ」を既存のナフサクラッカーに入れて、従来設備を活かしながら温室効果ガス排出の低減を狙う取り組みが進んでいます。三井化学はバイオマスナフサ投入を進めていることを公開しており、出光興産もNesteのバイオマスナフサ供給に関する発表を行っています。
そして、いま最も現実味が増しているのがケミカルリサイクルです。廃プラスチックを熱分解して油(分解油)に戻し、それを精製・処理してナフサ相当の原料として再びクラッカーに投入する。三井化学は廃プラ分解油のクラッカー投入を公表しており、行政側の実証事業でも「熱分解油化→ナフサクラッカー投入」という流れが検討されています。
要するに、ナフサの未来は「原油をどう割るか」だけでなく、「原油以外からナフサ相当をどう作るか」「使ったプラスチックをどう原料に戻すか」という勝負になってきています。ガソリン車の減少は“燃料の話”に見えますが、裏側では「材料の安定供給」という別の経済問題を連れてくる。ナフサは、その結節点にいる存在です。



















