中国製ソーラーインバーターに潜む通信リスク:エネルギー安全保障を揺るがす「ゴーストデバイス」問題

中国製ソーラーインバーターに潜むリスク:エネルギー安全保障への脅威

米国エネルギー当局は、中国製のソーラーインバーターやバッテリーに、製品仕様に記載されていない通信装置が発見されたことを受け、再生可能エネルギーインフラにおけるセキュリティリスクを再評価している。これらの機器は、米国を含む各国で広く使用されているが、未確認の通信装置が電力網に接続されることで、安全保障上の脅威となる可能性が指摘されている。

不正通信装置の発見:電力網に潜む危険

中国製ソーラーインバーターは、再生可能エネルギーを電力網に接続するための重要な機器である。しかし、米国のエネルギー当局は、これらのインバーターやバッテリー内部に、製品説明書には記載されていない通信装置が含まれていることを確認した。これらの装置はリモートでのアクセスを可能にし、電力供給の制御や停止を引き起こす危険性があるとされる。

特に、ファイアウォールを迂回し、中国と直接通信可能なルートを確保する機能が疑われており、電力網におけるサイバーセキュリティ上の重大なリスクとなる可能性がある。実際、これらの通信装置が悪用されれば、広範囲にわたる停電やインフラの損傷を引き起こす恐れがあるという。

米国政府の対応と透明性確保の取り組み

米国エネルギー省(DOE)は、今回の事態を受けて、製品の透明性確保を重視する方針を示している。メーカーには、製品に含まれるすべてのコンポーネントを明確に開示し、顧客が購入した機器の機能を完全に理解できるよう求めている。また、「ソフトウェア部品表(SBOM)」という製品の構成を詳細に記載したリストを作成し、不正な通信装置の有無を確認できる仕組みを整える方針だ。

さらに、米国議会では、国家安全保障上のリスクを理由に、中国製バッテリーやインバーターの使用制限を検討している。2027年10月からは、中国の特定企業からのバッテリー購入を禁止する法案が審議中で、これによりエネルギーインフラの安全性が一層強化される見通しだ。

中国政府と企業側の反応

今回の事態について、中国政府は「国家安全保障の名の下に中国の技術を汚す行為だ」と反発している。一方、ソーラーインバーターの大手メーカーであるファーウェイや他の中国企業は、こうしたリスクを否定しており、不正な通信装置の存在を認めていない。

しかし、米国の専門家は、中国企業は中国の諜報機関との協力を義務付けられていると指摘し、外国に設置された中国製インバーターが、中国政府によって監視または制御される可能性を警戒している。

各国で高まる懸念:エネルギー安全保障の課題

米国のみならず、リトアニアやエストニアなどの国々も、中国製再生可能エネルギー機器の使用制限を検討している。リトアニアは、100キロワットを超える太陽光や風力発電設備への中国製デバイスのリモートアクセスをブロックする法律を施行し、エストニアもエネルギー安全保障の観点から対策を強化している。

日本でも、再生可能エネルギーの導入が進む中、中国製機器の安全性に対する関心が高まっている。特に家庭用の太陽光発電システムやバッテリーにおいても、サイバーセキュリティの確保が重要な課題となる。

信頼できるエネルギーインフラの構築を

今回の問題は、中国製のソーラーインバーターやバッテリーに組み込まれた不正な通信装置が、エネルギー安全保障に重大なリスクをもたらすことを明らかにした。各国は、こうしたリスクに対処するため、製品の透明性確保、サプライチェーンの多様化、サイバーセキュリティの強化に向けた取り組みを進めている。

特に日本においても、信頼できる再生可能エネルギーインフラを構築し、エネルギーの安定供給を確保するため、輸入機器の監視強化や国産機器の普及が重要な課題となるだろう。

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